神楽坂のふちがみとふなと

 ふと気付くと、シアター・イワトでのふちがみとふなとからもう1週間かあ。このところちょっと惚けていて、文章書いたりする気力がまるで出なかったんですが、これだけは書いておかないと。ほんと素晴らしかったので。
 あの日は、場の空気というものがそこで行われる演し物にどれだけ大きな影響を与えるか、ということを、まざまざ痛感しました。イワトはそんなに大きな会場じゃないし、というか定員100人ほどの小さなハコなのだけど、でも、これまでのふちふなからすると明らかに大きい。そして何よりも、そのつくりがライブハウスではなくて劇場。この夜のためだけに東京にやって来て気合い入りまくりの純子さんと、心なしか走っているように聴こえる船戸さんのベース、そしてそれに呼応し、さらに煽っていく客席。もちろん総立ちになるとかじゃありませんよ。でも、静かに集中して聴いているときと、曲が終わったあとに沸き起こる拍手の大きさとのギャップが、自然とそうさせるのです。最初ステージに登場した純子さんが客席を眺めて発した「わたしもびっくりしてるけど、みんなもびっくりしてると思う」というひと言が、この夜それから起きるすべてを予言していました。世の中には、たとえば『ジョアン・カエターノ劇場のエリゼッチ・カルドーゾ』とか『レジーナ劇場のアストル・ピアソラ』といった尋常でない一夜の記録が残されていますが、この「シアター・イワトのふちがみとふなと」も、そんな特別なコンサートでした。企画をたて実現された、神楽坂のマンヂウカフェ「麦マル2」のみなさんに、心から感謝いたします。ときには自分の店でライブを企画するものとしても、いろいろなことを考えさせられました。
(宮地)

エリザベス・コップフのエア・シガレット

 11時半起床。結構寝たのにそんな訳でぐったりとした目覚め。まあ、夢でよかったけど。洗濯機を2回回す合間に、ミカコ手製のトマトと舞茸のパスタを食べ、インターネットで今年デビューする2歳馬の血統表を眺めたり*1してたらあっという間に16時で、慌てて尾久図書館へ。バタバタ働いて19時45分終業。まっすぐ帰れば20時には自宅ですが、今日はここからが本番。自転車を飛ばして浅草は「ギャラリー・エフ」へ*2


 ギャラリー・エフは江戸時代末期に建てられた土蔵を改修したユニークなスペース。学生時代の友人、山口剛がオープンの時から携わっているのですが、ひと月ほど前、その山口から久しぶりに電話をもらいました。なんでも「こんど、オーストリアのグラフィック・デザイナーの展示をするのだけど、来日した彼女の要望で、急遽大量の古雑誌が必要になった」とのこと。膝くらいまでの高さの束が30ほど必要だったのですが、なんとか20くらいは用意してお貸ししたのです*3。こんな機会は滅多にあるもんじゃないし、どんなふうに使われるのかも興味津々。ということで早く観たかったのですが、一箱古本市weekと思いっきり重なってしまったため今日まで延び延びになってしまいました。

 エリザベス・コップフという、このデザイナーのことは、今回までまったく知らなかったのですが、一目で気に入りました。その人となりやこれまでの仕事については、こちらの「ギャラリー・エフ」のページをご覧いただきたいのですが、デザイン的にはとても洒落ているのに、その主張するところは戦闘的。そして、そのバランスが絶妙なのです。近年ずっと続けている「エア・シガレット」というプロジェクトの東京ヴァージョンであるこの展示もまさにそうで、観る人をまず視覚的に魅了することで、作品への興味をかきたてるのですね。いや、参りました。力及ばずこの日記のアップは展示最終日になってしまいましたが、お近くの方はぜひお運びください。また、少しでも興味を持たれた方は「STUDIO VOICE」最新号に掲載されているインタヴューもご覧ください。


 観おわったあとは、併設のバー(昼間はカフェ)でビールを飲みながら、感想や世間話を。道すがら祭装束の男たちをあちこちで見かけたので気付いてはいましたが、今日から三社祭。でも、ご存知のように今年は本社神輿が出ないため、地元は今ひとつ盛り上がっていないそうです。もちろん町内神輿は出るし、山口も担ぐそうだけど、やっぱり宮出しがないと、なんて話から、共通の友人の動向まで。でも今日何より書いておかなければいけないのは、この一見「ギャラリー併設」で「外国人旅行客の目立つ」バーが、ビール好きにとっては堪らない魅力を持った店だということ。ここはサンフランシスコの地ビール「アンカー」が各種取り揃えられている知る人ぞ知る貴重なお店なのです。しかし、これがうまい。最初の「リバティエール」もうまいかったけど、次に飲んだ「ポータービール」がまたうまい。
beer mania!(ビアマニア)―飲んでおきたい世界のビール77本
 あんまり「うまい、うまい」と飲んでいたら、バーテンダーの方が「ビール好きでしたらこの本がお勧めですよ」と、藤原ヒロユキ『ビアマニア!』という本を貸してくださったのだけど、これがまた素敵な本。全部で160頁ほど半分ほどを「エールのスタイル」という章が占めてますよ。藤原さん自身の手になるイラストにまた味があって、眺めているだけで楽しくなっちゃいます。これはぜひ入手しなければ、とメモを取り、「本を探すのはまあ本職ですから」と話すと、「たくさんあるので」と、なんと倉庫からもう1冊お持ちくださり、いただいてしまいました。ありがたいことです。というわけでみなさま、浅草にお出かけで、おいしいビールが飲みたくなったら、ぜひ「ギャラリー・エフ」までお運びください。またその際は、見事に再生された蔵と、そこでの展示もお忘れなく。

 最後にもう1枚写真を。やはりお土産にいただいてしまった、エリザベスさんのデザインしたCD。山口がぼくのことを「音楽が好きな男」と説明したら、「だったらこれを」と託して帰国されたそうです。何たる心遣い。直接お会いできなかったのは残念でしたが、おそらく一生知らずにいただろう人とこんなふうに繋がるなんて、生きていくということは、ほんと不思議なことです。この3枚のCDから、また新しい世界が広がるのだろうし。

(宮地)

*1:個人的な夢の組み合わせはこちら、父ロサード、母の父サクラチトセオーであります。まあデビューしてくれれば御の字。で、クラシック路線への期待はこの馬や、あとまあベタだけどこの馬に託します。あとついでなので書いちゃいますが、今もっとも楽しみにしているのはこの馬、サクラリーバポート。でも「リーバポート」ってなんだよ?と思ったら「leave a port」。これはちょっとわかんないなあ。ただまあ「出航」ですからね、語感はともかく悪くない名前。ぜひ大成してほしいものです。

*2:田端新町のあたりから、都バス草64系統と並走、抜きつ抜かれつのデットヒートに。吉原大門付近でいったんかなり引き離されたのですが、馬道の交差点で追いつき、最終的には逃げ切りました。所要時間は25分ほど。

*3:展示内容にはまったく関係ないのですが一応内訳を記しておくと、「月刊PLAYBOY」の創刊号からの揃いが300冊ほどと、「EQ」のやはり揃いが50冊ほど。この辺はまとめて出そうと思いつつも果たせず、死蔵されていたもの。あと「Quick Japan」や「ニューミュージック・マガジン」も結構まとめて。こちらはダブりのものですね。

日暮里・舎人ライナーと「日本鉄道旅行地図帳」

 昨夜は大観音で一箱古本市大納会一箱古本市の大家さん、一箱古本市weekに企画参加してくださった方、そして「不忍ブックストリートMAP」の広告主の方々をお招きして、日付が変わるまで楽しいお酒を飲みました。これをもってこの春の一箱がらみの行事はすべて終了。みなさまどうもありがとうございました。



 さて、今日は念願の日暮里・舎人ライナー初乗り。正午、日暮里駅の改札で板谷さんと待ち合わせ。「不忍ブックストリートMAP」のデザイナーである板谷さんは、その実、筋金入りの鉄道ファンで、ぼくにとってはその道の大先輩。なにしろ、宮脇俊三の『時刻表2万キロ』が出版されたとき、それを「自分と同じことをした人」の本として手に取った方ですから。そんな板谷さんと、先頭車両のいちばん前に並んで座り往復した1時間あまり。本当に楽しかったなあ。ぼくがひたすら鉄道に乗っていたのは高校3年生までですが、例外なくいつも一人でした。なので、たとえこんな短い時間でも、自分よりも鉄道に詳しい人とのこのような道行きは、よく考えたらはじめてのことなんですよね。移り行く車窓を眺めながらの、汲めども尽きぬ鉄道の話。忘れられない日になりました。

 本来の主役、日暮里・舎人ライナーについてもちょっとだけ。やっぱり一番の見どころは、荒川越えの眺望。そこから見える景色もさることながら、カーブしながら上昇していく線路の姿がジェットコースターみたいでおもしろい。思ったほどは揺れなかったですけどね。あと、たしか西新井大師西駅の脇だったと思うけど、大きな団地を俯瞰で見ることができて、これは新鮮でした。写真を撮るのだったら、帰路、熊野前駅の手前で荒川線を跨ぐのだけど、ちょうど都電が来てくれるとこれは絵になります。ぼくは撮りそこねたけど。それと、これはまったく個人的な楽しみですが、尾久図書館もはっきりと見えましたね。ちょっとうれしかったです。


 最後にひとつお知らせを。明後日17日の土曜日、日本の鉄道出版史に残るすばらしい本が刊行されます。その名も『日本鉄道旅行地図帳』。詳しいことはこちらの公式サイトをご覧いただきたいのですが、すべての鉄道ファンのハートを鷲づかみにすることは間違いありません。まだ発売前にもかかわらず、どうしてそんなことがわかるかと言えば、このシリーズのデザインを手がけているのが板谷さんだから。もうひと月くらい前になりますが、「今度こういうものが出るんです」と教えていただいてから指折り数えて楽しみにしていた日が、もうすぐ訪れます。みなさんもぜひ書店で(ご近所にお住まいの方は往来堂書店で)手に取ってみてください。
(宮地)


 

月の湯古本まつり

 楽しかった月の湯
 詳細なレポートは「わめぞ」のみなさんが書いてらっしゃるので、ぼくは簡単な感想のみを。

http://d.hatena.ne.jp/sedoro/20080405 古書現世店番日記
http://d.hatena.ne.jp/mr1016/20080405 m.r.factory
http://tabineko.seesaa.net/article/92720805.html  旅猫雑貨店 路地裏縁側日記
http://ouraiza.exblog.jp/7810374/ 古書往来座・ちょっとご報告
http://taikutujin.exblog.jp/6981704/ 退屈男と本と街


 一番うれしかったのは、カータンに会えたこと。 
 http://niwatorib.exblog.jp/7644622/ にわとり文庫

 というのは、半分冗談で半分本気。にわとり文庫さんのブログには毎回楽しませていただいているのですが、今回の「カータン月の湯探検の巻」は、まさに出色のできばえ。素晴らしいセンスに加え、芸の細かさが光ります。古書ほうろうの籠にもハタキかけてもらえばよかったなあ、と後悔しきり。



 チキンライスが完売して、多くの方に「おいしかった」と言っていただけたこともうれしかったですし、ほうろうでは売れ残っていてもここならいけるんじゃないかと出した本がそれなりに捌けたことも自信になりましたが、今回参加させていただいて一番良かったのは、この「わめぞ」渾身の一大イベントを内側から見せていただけたことでした。内側といっても、責任のない、限りなく外野に近い立場ですが、でも開店前の準備から撤収までご一緒したおかげで、その仕事ぶりとチームワークを肌で感じることができました。噂には聞いていた「わめぞ」の宴会も、ほんと楽しかったです*1

 そして、そんななか、「不忍ブックストリート」と「わめぞ」の違いも、なんとなくわかったような気になりました。どちらもイベントを打ってお客さんを集めようとしているという点で、端からは同じように見えるかもしれませんが、「わめぞ」が基本的には「本を売る」という目的に向かっているのに対して、「不忍」は必ずしもそうではないんですよね。ある部分、それはぼくたちの強みになっているし、思い描くヴィジョンもそれなりにあるのですが、局面局面でそれが弱点になっているような気もしています。

 同じようなことは、古本屋としての「古書ほうろう」にも言えるわけで、たとえば向井さんを見ていると「ほんと古本屋さんだなあ」と思うのだけど、ぼくはまったくそうではありません。いつまで経っても「レコードの紹介をすることで本を売る」ようなところが抜けないんですよね。もちろん自覚的にそうしているところもあるのですが、ともするとそれは自分に対する言い訳になりがちだし、やっぱり古本屋というベースがしっかりしてないと。

 まあ、今さらという気もしなくはないのですが、そんなことをあれこれ考えさせられました。

(宮地)


*1:飲み過ぎと寝不足で、帰りの山手線は爆睡。気付いたら田町でした・・・。

エドガー・ジョーンズ


 渋谷のクラブクアトロにて待望のエドガー・ジョーンズ。明日の月の湯の準備を考えたら、本当はそんな暇まったくないのだけど、これに行くことは、月の湯へのお誘いを受ける前から決まっていたのです。どうしても見逃せません。なんでまたこんなにイレ込むことになったかも、いつかちゃんと書いておきたいのですが、今日のところは手短かな感想のみを。

 はじめて聴くエドガーと、彼のバンド、ジョーンゼス。ほんとカッコよかった。基本的には黒人音楽が大好きな白人によるバンドなのだけど、そういうバンドにありがちな、頭でっかちところがまったくない。いや、実際頭は相当デカいのだけど、体もそれに見合っていると言えばいいのかな。ともかく音が太くて黒い。そしてエドガーの存在感。そのパワフルな喉にも降参ですが、何よりステージ上での一挙手一投足にシビれました。

(宮地)

ハイ・ラマズで洗濯

BEET, MAIZE & CORN
 11時起床。生活リズムが戻ってきたのに合わせてくれたかのように、天気も回復。ようやく洗濯ができました。今日のBGMはハイ・ラマズの『Beet, Maize & Corn』。よく晴れた日に、ハイ・ラマズの音楽を聴きながら洗濯物を干すのは、結構しあわせです。ルグランもバカラックも、それにもちろんビーチ・ボーイズも試してみたけど、少なくともこの家の2階で干すぶんには、ハイ・ラマズが合うみたい。


 日が陰ってきてからは、ずっと日々録を書いていました。こちらはBGMなし。ほんとは出勤して、ちょっとでも品出しした方が良いのですが、花粉が怖かったので大事を取りました。明日はその分たくさん出します。

(宮地)

近藤十四郎&ヒロマサタカシ


 起きたら、14時。店を出たのが朝の6時で、寝たのは7時を回っていたから、まあ無理もないのだけど。でも、20時からの近藤さんのライブには、余裕で間に合うはずだったのですが・・・。からだも、あたまも、今ひとつうまく動かず、ペチコートレーンに着いたら21時で、ちょうど休憩中。人いきれでむんむんしている店内から「あちー」と言いながら小森くんが出てきました。わお、久しぶり。

 そんなわけで、水の底楽団の盟友ヒロマサタカシとのギター2本によるデュオは後半しか聴けずじまい。前半演ったという、レオン・ラッセルやクルト・ワイルのカバーを逃したのは痛恨ですが、後半も気合いの入った熱演。ほうろうでやっていただくときと違い、純粋に客として集中できるからかもしれませんが、いつも以上にボーカルに力を感じました。また、ヒロマサさんのギターとの絡みもカッコよく、ルー・リードのライブ盤『パーフェクト・ナイト』を思い出しました。
 
 終演後は、もう1杯だけ飲んでから、店へ寄り道。売約済みとなった『室内』の揃いを奥から出してきて、内容をもう一度点検してから家に帰りました。

(宮地)
Perfect Night