神楽坂のふちがみとふなと

 ふと気付くと、シアター・イワトでのふちがみとふなとからもう1週間かあ。このところちょっと惚けていて、文章書いたりする気力がまるで出なかったんですが、これだけは書いておかないと。ほんと素晴らしかったので。
 あの日は、場の空気というものがそこで行われる演し物にどれだけ大きな影響を与えるか、ということを、まざまざ痛感しました。イワトはそんなに大きな会場じゃないし、というか定員100人ほどの小さなハコなのだけど、でも、これまでのふちふなからすると明らかに大きい。そして何よりも、そのつくりがライブハウスではなくて劇場。この夜のためだけに東京にやって来て気合い入りまくりの純子さんと、心なしか走っているように聴こえる船戸さんのベース、そしてそれに呼応し、さらに煽っていく客席。もちろん総立ちになるとかじゃありませんよ。でも、静かに集中して聴いているときと、曲が終わったあとに沸き起こる拍手の大きさとのギャップが、自然とそうさせるのです。最初ステージに登場した純子さんが客席を眺めて発した「わたしもびっくりしてるけど、みんなもびっくりしてると思う」というひと言が、この夜それから起きるすべてを予言していました。世の中には、たとえば『ジョアン・カエターノ劇場のエリゼッチ・カルドーゾ』とか『レジーナ劇場のアストル・ピアソラ』といった尋常でない一夜の記録が残されていますが、この「シアター・イワトのふちがみとふなと」も、そんな特別なコンサートでした。企画をたて実現された、神楽坂のマンヂウカフェ「麦マル2」のみなさんに、心から感謝いたします。ときには自分の店でライブを企画するものとしても、いろいろなことを考えさせられました。
(宮地)