仙台文庫2『大きな羊のみつけかた』
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仙台文庫2
『大きな羊のみつけかた 「使える」美術の話』
齋 正弘著 定価 987円(税込み)
仙台文庫
http://md-sendai.com/sendaibunko/
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「美術」って何?
絵を上手く描くこと?
もしそうだとしたら、絵を上手く描けるようになるにはどうしたらいい?
早い話、本当に上手い絵を描きたい人は、まず、たくさん本を読んだほうがいいのかもしれない。
「美術」の「美」はビックリのビ。「美」という漢字、羊という字に大きいという字が組み合わさってできている。
美しかろうが汚かろうが、ビックリするほどのモノやことに出逢うと、私たちは「うわあ!」とか「おおっ!」とか「ひゃあ!」と感動する。そんなビックリメーターの針がいつでもプラスにもマイナスにも軽く動けるように油を注して、美術館に行ったら、本物の作品を鑑賞する。
自分の目で見て、考え、自分の言葉で表現する。
好き嫌い、作者の想い、外からの情報からいったんはなれて、作品と対峙する。真摯に丁寧に見る。そうして「その人自身」が「作品から読み取れることだけ」を使って、「自分のお話」を「組立てる」。その行為の結果、自分と違う世界観を理解し、それが自身の、人間の世界観を拡大させることになる。
えー、ええーっ、と著者の語る美術にビックリ!わたし自身、美術って、嫌いじゃなく、むしろ積極的に好きな分野ですが、言葉で考えたことなどなく、自分の中で変幻自在に形を変えるモヤモヤでした。この本では、美術って何?ということが、著者の経験に基づいて丁寧に言葉で表され、自由なモヤモヤと思っていたものは、目から鱗が続けざまに落ちて、わりとバリバリな固定観念だったんじゃないかしらと気づかされました。この新鮮な感覚を携えて、はやく美術館に行きたい!
これまでの人生、好きな作家や作品にしかアンテナを張ってこなかったので、好きでない作品を前に、「作品から読み取れることだけ」を使って、「自分のお話」を「組立てる」というのは、とても難しいことではあるけれど、とても大切なことではないかしら。生きてゆく上で、美術を「使う」ということ。
先の見えない不安を抱え過ごす毎日、様々な意見がぶつかりあうであろうこれから先、目の前でおきていることを見て、柔らかい頭で考えて、自分の世界を広げていくための、大きなヒントになるのではないかと思います。できればもう少し若い時に、この本と出会いたかったなぁ。
なので、いろんな人に読んでもらいたいです。これからの世を生きていく子どもをもつお父さんやお母さんにも読んでもらえたらうれしいです。著者の来館する子どもたちとの接し方、距離のとり方も興味深いです。
著者の齋 正弘さんは、宮城県美術館の教育普及部長であり、造形作家です。宮城県美術館では、開館以来「美術館探検」という活動を続けており、これまでたくさんの年少者たちに「美術鑑賞」の入口を美術館の探検という形で伝えてきています。10歳に満たない人から学校の先生まで、多種多様な人と関わってきた著者の蓄積がこの本には詰まっています。
また、共に仙台文庫のスタートを飾った本、〈book cafe 火星の庭〉の前野久美子さん編・著『ブックカフェのある街』では、鉄のオブジェをプレゼントした造形作家の齋さんが登場します。かっこいいですよ。
『ブックカフェのある街』を読み終えて、2月の終わりごろから『大きな羊のみつけかた』を少しずつ読み始め、震災でしばらく読めなくなって、4月に入ってようやく読み終えました。読み始めたころはまさかこんなことになるとは思いもしませんでしたが、このタイミングで読めてよかったです。読む人により、受け取るところは違うかもしれませんが、時間を経ても語りかけてくるような本だと思います。
宮地と相談し『大きな羊のみつけかた』は売上げから1冊につき100円を、被災地に本を送るプロジェクト、〈一箱本を送り隊〉http://honokuri.exblog.jp/ の活動資金として寄付することにしました。
こちらは2011年5月15日に一箱本送り隊へ寄付]させていただきました。⇒ご報告
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