装釘考 西野嘉章(旧字文字化けするかなぁ…)





裝釘考
西野嘉章 著  浅井潔 造本  田宮宣保 校正
玄風舍 発行  青木書店 発売  平成12年 初版 カバー  8,400円(税込)
うちの店には確か二回目の入荷です。

本が本足り得るためのミニマムな要件は、畢竟、用紙と印字であり、基本はこれに盡きる。加えて質的な批判に耐えるだけの書容を備えたものであればそれで充分。徒な附帶要素など不要なのだ。そうした意味でも、不易な裝釘すなわち、いつの時代にもつねに新しさを感じさせずにおかぬ裝釘こそ評價に値する。良質の素材で、しかも簡潔なものが良いと言い切ったのは畫家の東郷青兒である。この明快な裝釘觀に近代裝釘の最終的な逢着點を見ることが出來る。(冒頭「近代造本史畧―――序にかえて」最後の段落写し)


ふぅっ。原文は旧漢字なので、漢和辞典片手に探せる文字はなるべく原文に従いましたが、新漢字を当てている箇所あります。
では、目次から、漢字変換のし易そうなところを抜き出してみます。「本」を構成する要素ごとに項目がたてられ、それぞれ一冊の本を元に解説が為されています。

  活字『學問のすゝめ』(福澤諭吉・小幡篤次郎著)
  小口『世界進歩 第二十世紀』(佛國アーロビダー氏著・日本服部誠一譯)
  包紙 恩地孝四郎と『どんたく』(ゆめじ作)
  誤植 柳瀬正夢と『狼へ!(わが労働)』(藤森成吉著)
  定價 尾形龜之助と『詩集 色ガラスの街』(尾形龜之助著)


内容も興味深いのですが、佇まいの美しい本です。華美でなく、おさまるところにすっと落ち着いたような。手にするとき、大きさからある程度の重さを反射的に覚悟しますが、意外にもふわりと軽く、その裏切りが手に心地よいのです。肌ざわり、感触、手に寄り添うように馴染む本です。

図版は白い紙にカラーで掲載され、本文は未晒の目方の軽い紙が使われています。紙が柔らかいので、初めも中程も終わりのほうもどの頁も捲り易く開き易い。本文の余白の取り方、文字の大きさ、行間が、読み易く配置されています。書名を赤で差してあるところなんか、色っぽいです。


白と未晒が計算された配分で小口に美しいストライプをつくっています。

こうして書く間も、しばしば手にとりパラパラと捲る。ずっと触っていたくなる本です。
凝っていてたのしい装釘の本も好きですが、こういう本に出会ったときの感動は格別です。
(ミカコ)