休日は荒川線に乗って

 世の中は今日から三連休のようですが、ぼくは昨日おとといと非番だったので今日からは仕事です。きっとたくさんのお客さんが来てくださるでしょうし(どうぞお願いいたします)、気分よくバンバン品出しするつもりですが、まずはその前にお休み中の報告なぞ。

 木曜日。まずお昼過ぎ、団子坂のマンションまで出張買取りに。こちらのお宅には先週も伺って段ボール8箱ほどお預かりしてきたのですが、そのとき積み残したクラシックのCDとレコードを2箱ばかり。アナログ盤は基本的には引取らないのですが「残ったものは全部廃棄しちゃうので、買い取れなくても欲しいものがあったらどうぞ」とのことだったので、10枚ほどジャケ買い気分で抜かせていただきました。そのうち店内に飾ろうかと。本の方はこの週末から店頭に出す予定。モーツァルト関係だけで一棚つくれそうな量なんですが、さてどうしましょうか。

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 いったん家に戻って、夜は荒川線で大塚まで。ミカコと落ち合い、第69回南大塚ホール落語会へ。春風亭栄助改め「百栄の真打昇進を祝う会」であります。いや、百栄さん、面白いわあ。先月、うちの店での寒空はだかさんの会の打上げで「今度はじめて百栄さん聴きに行くんですよ」と言ったら、はだかさんが「百栄さんはいいよお」と絶賛されていて、いやが上にも期待は高まっていたのですが、さらにその上を行くキャラクターの持ち主。登場人物ひとりひとりが生き生きと動きまわる、とても楽しい「はてなの茶碗」でした。まだお聴きになっていない方はぜひ。近いところでは、今晩!上野の鈴本でトリをつとめるほか、明後日にも内幸町ホールでの昇進披露目があります。ぼくは来月吉祥寺マンダラ2で行われるはだかさんとの会に行って、こんどは古典ではない百栄さんを聴いてみたいと思っているのですが、さて師走のど真ん中に都合がつくや否や。

 この日は真打ち披露の口上もあったので、「こういうの、前に観たのはいつだっけかなあ?」とつらつら考えてみると、柳家喬太郎林家たい平のとき以来。調べてみるともう8年前ですか。あの頃は「寄席に行きたい」モードで、結構ちょこちょこ行ってました。でもそのうち「落語を聴きに行く」という習慣がぱったりなくなってしまって、ひょっとしたらずっとそのままだったかもしれないのを劇的に戻してくれたのが、今や本屋の世界でも知らぬ者のなくなった立川談春。去年こそ「ただ談春だけを追っかける」という感じだったのですが、今年は他の噺家さんも聴いてみようという感じになってきて、おかげで瀧川鯉昇(6/2 東京古書会館)、柳亭市馬(10/31 末広亭)、そして今回の百栄さんといった方々の高座に触れることができました。出勤してきたミカコが妙にニコニコしてるなあ、と思ったらヘッドホンで談志師匠聴いてた、なんてこともしばしばで、わが家はすっかり落語モードです。

 終演後は、偶然居合わせた店のお客さまと3人で北口の広東料理屋「大肚魚飯店」へ。スペアリブ豆�和え飯、おいしかったなあ。あと焼鴨飯も。お酒はそこそこに1時間ほどで切り上げ、巣鴨新田から荒川線で帰宅しました。ところでこの電停、通るたびに「乗り降りすることなんてきっとないだろうな」と思っていたのですが、案外あっさり利用することになって、ちょっとうれしかったです。こういう自然なかたちで、いつか荒川線の全停留所に足跡を残すのが夢なのですが、あと残っているのはどこも自転車でスイスイ行けるとこばかり。ということで、これは相当難しそうです。

 
 翌金曜日。昨日ですね。やはり荒川線に乗って雑司が谷まで。ちょっと歩いたシアターグリーンで、14時からチェーホフのちょっと変わった芝居を。前半がチェロの生演奏をバックに「ねむい」のひとり語り。まん中にチェロ独奏をはさんで後半は「白鳥の歌」。演じるのは共に劇団昴の創立メンバーである西沢利明西本裕行。普段こういうお芝居を観ることはほとんどないのですが、以前三百人劇場にいらした村上さんにご招待いただいたのと、なんと言ってもチェーホフなので。チェーホフの小説(特に中後期のもの)は全集でほとんど読みました。妙に肌が合うんですよね。なのでまあ「好き」と言ってもいいと思うのですが、ただぼくは戯曲を読むのが苦手なので、そっちのチェーホフはあんまり知りません。だから「お前がチェーホフ好きだなんて片腹痛いわ」と後ろ指さされているような気持ちはいつも心のどこかにあるのですが、そんな人間にとってはこの企画はとても魅力的でした。舞台の上のチェーホフは、ぼくが知っている彼よりも力強く、そして雄弁で、そういう意味ではびっくりもしたのですが、音楽とことばの重なるさまが心地よく耳に響く、濃密な一時間でした。明日が最終日ですがチェーホフ好きでお時間のある方はぜひお出かけください。

 終演後は池袋の街をふらふらしながら、なんとなく新文芸坐へ。ちょうどこれから『イースタン・プロミス』と『マンデラの名もなき看守』の上映が始まろうというところ。芝居を観たあとでさらに2本立てというのはどう考えてもあんまり。ただ、ぼくの好みから言って今日観なきゃたぶん一生縁がないのもまた確か。なんてことを思ううち吸い込まれるように入場したのですがこれが大当たり。特に『イースタン・プロミス』。ロシアン・マフィアの話ということで想像していた通り、ノッケからリアルな殺人描写で「あちゃー、やっぱりー」と慄きましたが、にもかかわらず惹き込まれる惹き込まれる。結末も案に相違して救いのあるものでしたし、これは超娯楽大作と言っても決して間違いではないかと。ロンドンという街のグレーな色彩がとても印象に残りました。サッカー・ファンなら「おおー!」と見入っちゃうシーンもあり。

マンデラの名もなき看守』は打って変わって重厚な佳作。難点は気がつくと眼から涙がこぼれ落ちてしまうことでしょうか。ぼくが学生の頃はマンデラ解放運動が日本でも盛り上がっていて、そういうライブイベントなどにも行きましたし、あの国についての本も読んだりしたはずなのですが、マンデラ氏と信頼関係で結ばれたこういう看守さんがいたということは今回はじめて知りました。『イースタン・プロミス』のあとだったせいもあるのでしょうが、空が青かったなあ。個人的には汽車のシーンも◎。

 終映後は向原の電停から荒川線に乗って帰宅。というわけで、池袋に行ったのに池袋駅にはまったく足を踏み入れずに済みました。ターミナル駅を人混みをかきわけ進むのは結構ストレスたまりますからね。荒川線だけで移動したこの2日間はほんと楽ちんでした。

(宮地)