白石ちえこ『サボテンとしっぽ』

 幽体離脱したような夢を見ました。

 夜更かしして寝入り時を逃すと、身体と頭の疲れ方にズレが生じるのかよく金縛りに遭います。鉛のように布団に沈んでいく身体とは裏腹に脳だけが妙に冴えていて、部屋の景色を眺めていたり、寝返りうたないと金縛りになっちゃうなぁ、とか考えていたりします。
 今朝もそんな感じだったのですが、いつもだったら金縛りになるところで、あ、今だ、となぜだか確信したのでした。そして自分の身体から抜け出そうと何度も試みました。でも、ことはそう簡単ではなさそうで、諦めて身体もくっつけて起きることにしたのでした。そうしたら、なんと身の軽いこと!人類初、月面着陸を果たしたアポロ11号の宇宙飛行士並です。愉快になってしまって、先に起きて階下に居るはずの宮地にも見せびらかそうと、階段を両足揃えて、ピョ〜ン、ピョ〜ンと、天井に頭をぶつけないように気をつけながら一段ずつ降りました。こんな大事な時にトイレなのか宮地は居ないので、茶の間でひとしきり独りでピョ〜ン、ピョ〜ンを繰返し、また二階の布団に戻ってほんとうの睡眠に入ったのでした。
 という夢をみた、つもりでいるのですが、今こうしてキーボードを叩いているのは抜け出たままの魂が遊んでるだけなのかもしれないですね。何事も曖昧です。


 前置きがちょっと長くなってしまいましたが、今日は曖昧つながりで愉しい写真集をご紹介です。

 白石ちえこ『サボテンとしっぽ』。この秋、冬青社から上梓されました。
 白石さんの写真を見ていると、ん?これは造りモノ、それともホンモノ?と顔を近づけてしまうことがよくあります。そうして、写真集のあとがきを読んで、そうか、と思ったのでした。


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旅先でいつも目の前に現れたのは、煙突やサボテン、トタン塀や電信柱やアロエなど、町の片隅でしずかに深呼吸する古びた建物や、ちょっととぼけたモノたちだった。
そんなモノたちに、道案内をしてもらいながら歩く目的地のない散歩は、気持ちがほどけてゆくようで、さわさわと気持ちよく、まがり角を曲がるたびにわくわくした。
そこでは虫も草も魚も花も、生命あるものもないものも、音もなくにぎやかにうごめいていて、はじめて来たのにどこか懐かしく、知らないのに知っているような、不思議な感情がやってくるのだった。
(一部引用)
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 タイトルになっている「サボテン」の写真は生命あるもの、「しっぽ」の写真は水辺のほとりのクジラかイルカの造りもので生命のないものですが、頁を開くとどちらも同じ白石世界の住人であって、ちょっと頭でも掻きながら、今はこんなんしてますけども、と話しかけてくるのです。彼女にとって、生きているとか、造りものだとかそういうことはどちらでもいいことで、すべては対等なのでしょう。いやいやひょっとすると「これ、おもしろいよねぇ」と笑う白石さんご本人も、ほんとうは曖昧世界からの使者なのかもしれません。
 ほうろうでも扱っておりますので、ぜひ手に取ってこの不思議で愉しい感じを味わってみてください。

(ミカコ)