デザイン満開 九州列車の旅

デザイン満開 九州列車の旅 (INAX BOOKLET)
 美しく、センス抜群な鉄道本が刊行されたのでご紹介します。タイトルは『デザイン満開 九州列車の旅』。
今月の5日から「INAXギャラリー名古屋」で開催されている同名の展示と併せて出版されたこの本のおかげで、ここ数年ぼくのなかでくすぶっていた疑問がきれいに氷解しました。

 さきおととし、水族館劇場の小倉での公演を観るため、10数年ぶりに九州に足を踏み入れたときのこと。福岡空港から地下鉄で博多駅に出、駅ビルで長浜ラーメンを食べたあとプラットホームに上がると、そこは原色をカラフルに使った美しい車両の数々で溢れていました。「JR九州がスゴいことになっている」という噂は、当時退役鉄道ファンであった自分にも伝わっていましたし、雑誌でその写真を目にしたこともありました。でも、実際に見るのとは全然違いますからね。ほんと、うっとりしてしまったわけですが、小倉に向かうのにソニック885系(通称「白いソニック」)に乗るに及んで、それは驚きに変わりました。焦げ茶色の革張りシートが並ぶその車内は、ぼくの知っている「日本の鉄道」の概念を軽く超えていて、頭のなかには「九州ではどうしてこんなことが可能なのだろう?」というクエスチョンマークがいくつも浮かぶことになったわけですが、その答えは全部この本のなかにありました。

 JR九州の車両は、すべて一人のデザイナーが手がけているのだそうです。その名は水戸岡鋭治JR九州にたずさわるようになってかれこれ20年、最近では、制服や駅舎のデザインまでその範囲は広がっているとのこと。「そうか、そういうことだったのか」と、目から鱗が落ちたわけですが、この本は、そんな水戸岡さんのデザインした数々の車両と、それらが走るに相応しい九州の鉄道の魅力を、そのふたつに負けないセンス溢れる造本で包み込んだ極上の1冊です。美しい写真に添えられた渡邉裕之さんの文章読んでいると、あたかも『ゆふいんの森』『あそ 1962』『いさぶろう・しんぺい』*1などの列車に乗っているような気分になってくるのですが、次第にそれでは物足りなくなり、今すぐにでも九州に行って、乗りまくって食べまくって(湯に)つかりまくりたいという衝動に駆られます。ああ、久しぶりに肥薩線に乗りたい、宮地駅にも行きたいなあ。

 12月3日からは東京の「INAXギャラリー1」でも展示があるそうで、そちらも楽しみですが、とりあえずはこの本でみなさまもお楽しみください。鉄道ファン以外の人にこそ強くお薦めします。

(宮地)

*1:『いさぶろう・しんぺい』の走る肥薩線スイッチバックループ線が組み合わされた鉄道ファンの憧れですが、この線については福音館書店からも今年素敵な絵本が出ました。「かがくのとも」の2008年6月号で、タイトルは『やまをこえる てつどう』