村井弦斎と水餃子

食道楽(上) (岩波文庫)
 小春日和のなか横浜へ。神奈川近代文学館「『食道楽』の人 村井弦斎」展

 古本屋としては失格なのですが、これまでこの人のことは名前しか知りませんでした。今回の展示にしても、内澤旬子さんのイラストがポスターやチラシに使われることがなかったら、目に止まったかどうか甚だあやしいものです。それに、ミカコが展示期間を把握していてくれなければ、いつの間にか終わっていたでしょう。でもまあ今回は縁があったようで、おかげでその人となりの輪郭だけはつかめました。『食道楽』が岩波文庫に入っていたことにも気付いていなかったのですが、今度ぜひ読んでみたいですね。展示のなかにも何箇所か引用がありましたが、この時代のものとしては驚くほど読みやすい文章でした。「啓蒙の人」というこの人の本質からすれば、それも当然なのですが(って、今日はじめて知ったのですが)。

 展示は書簡類が多く、それらを1つずつ丹念に見ていけば、南陀楼さんのようにまた違った面白さも発見できるのでしょうが、ぼくにはそこまでのバックボーンはありません。なので、内澤さんのイラストを見て楽しみにしていた「食道楽 家族合せ」の展示がやはり一番(札に書かれた「冷しビール」という表記が新鮮。グラスにはサッポロビールの印である大きな星が)。あと、印象的だったのは、挿絵に描かれた当時の邸宅の台所。「どこかで見たことあるなあ」と思ったら、旧安田邸のそれに似ているのですね。まあ規模こそ違いますが、たたずまいが。

 さて、この文学館は港の見える丘公園のなかにあるのですが、たぶん20年ぶりくらいとなるこの公園、昔はもっと景色がよかった気が。それとも感傷が記憶を美化しているのかなあ。なんだか詰まらんビルばっかり見えました。港の反対側に見えた夕日はそれは美しいものでしたけど。

 階段を下り、これまた微妙な元町商店街を途中で折れ、朱雀門より中華街へ。源豊行、照宝、チャイハネといった定番ルートに加え、前回ミカコの記憶に残ったという中国茶の店「悟空」などにも立ち寄り、主に食材をあれこれと買い込みました。嵩のわりには重さのある収穫のなかで今のところもっとも期待しているのは、源豊行で「うまいよ」と薦められた「香港橄欖菜」なる瓶詰め(日本名「からし菜とオリーブみそ」)。ご飯にかけるとおいしいんだそうです。

 いい加減疲れたので、いよいよ最終目的地「山東」へ。いろんなお店を試したい気もなくはないのですが、中華街まで来てここの水餃子を食べずに帰ることはどうしてもできないんですよね。関帝廟通りにあった頃は、安い、うまい、並ばない、という3拍子そろった店で、横浜スタジアムでのナイターが終わってからでも入れることから重宝したのですが、いまの場所に移ってからは、並ばずに入るのは少々困難に。でも今日は平日ということもあって10分ほどで入れました。水餃子2皿(20個)に「もやしとハチノス炒め」「冷しビール」(サッポロビールでした)大瓶2本で、締めて3780円なり。こういうのを幸せと言うのですよね。

(宮地)