秋も一箱古本市

 8時起床。ちょっと曇っていますが、お天気は持ちそう。ほんとによかった。頑張っている人を天は見離しません。春、雨に降られたのは、僕たちが「きっと降らない大丈夫」と安易に構え、雨対策をきちんとしなかった報いだったのですよ。中村さん、石井さん、本当にごくろうさま。そして、ありがとう。

 さて、ぼくの今日の最初で最大の仕事は、必ず9時半までに店を開け、あらかじめ箱を送ってきている遠方の店主さんたちに大事な一箱を手渡すこと。おにぎりひとつ頬張り、駆け足で店へ。

 一番乗りは、その日記の毒舌ぶりでつとに知られるエロ漫画編集者の塩山芳明さん。お嬢さんとご一緒です。密かに尊敬する人なのでちょっと緊張してしまいました。ほかの方々も次々とみえ、また、昨日届くはずなのに届かななかった箱があって心配していたのですが、それも配達希望日を一日間違えていたと判明。運送屋さんに連絡した結果、午前中には届くことがわかり一安心。最初の仕事は無事終わりました。

 11時ちょっと前、神原と交替して、今日2番目にして最後の仕事、「ほうろう賞」選定行脚へいざ出発。過去2回の一箱古本市は完全に運営側だったため、全箱を見るのは初めての体験です。ちょっとは時間の余裕もあるので、お客さんと同じ体験をしようと徒歩で回りました。「ほうろう賞」の賞品は「古書ほうろうに1ヵ月間自分の1箱を置く権利(または、2000円分のお買い物券)」。どうせならなるべくぼくたちも楽しめる箱にしたいと、気合いを入れて眺めてきました。

 4カ所のスポットで1箱ずつ候補の箱を選ぼうという心づもりで、まずはライオンズ・ガーデンから。ここでもっとも目を惹かれたのは百鬼園先生の本ばかりを詰め込んだ「古本 おーでぃっと とれいる」さんの箱でしたが、自分とより趣味が合うということでは「ぐるり」。創元推理文庫の『グリンプス』(ルイス・シャイナー)があって、店主の五十嵐さんと「これ素晴らしいよね」と語り合いました。今回は過去2回とは趣向を変えての完全対面販売方式だったわけですが、こうやって本を挟んで店主の方と話ができるという部分は、集中レジ方式では味わえない醍醐味だなあ、と再確認しました。

「1箱選ぶのはなかなか難しいなあ」と考えながら坂を上り、今度は宗善寺へ。ここは広々としていて、しかもこの頃になると日も射し始めていて、とても気持ちがよいです。ここで最初のお買い物。「古書 無人島」さんで、ご本人の手になる「モツ煮狂い」第1集を。これは、ちょっと前に南陀楼さんに見せてもらい、自分もぜひ手元に置いておきたいと思っていたもの。モツ煮への一途な思いを、端正な文章と見やすいレイアウトで包んだ1冊。お店の紹介とレシピの2本立てですが、実用性と娯楽性を併せもったすばらしい本です。ほうろうでも扱わせてほしいとお願いしてきました。

 一通り眺め、ここで選ぶなら金沢からみえたという「BOOKRIUM」さんだよなあ、とこの日初めて店の名前をメモ。わりとよく見るような本が集められているのにかかわらず、それがひとつの箱に入ることで別の世界がかたちづくられるといったふう。ともかくよい意味で古本臭い箱。小西康陽の『これは恋ではない』(幻冬舎)も入っていて、あの本なんてわりと新しめの本なのに、そう感じさせずしっくりきてました。

 次に向かったのは谷中銀座の「まるふじ」。ここでは塩山さんと再会。舛田利雄の『狼の王子』の話をちょっとだけしました。ぼくにとってはこの夏はじめて観た映画でタイムリーなのですが、塩山さんがこの映画について書かれたのはずいぶん前のこと。最初はぼくの唐突なフリにきょとんとされてましたが、あのなかの浅丘ルリ子を「『狼の王子』だろ、かの人が一番美しかったのは?」と評した人に「異議なし。大賛成!」ということをどうしても伝えたかったので。一箱古本市とは何の関係もありませんが、機会があればみなさんもぜひご覧ください。傑作です。

 塩山さんの箱ではロルカの『ジプシー誌集』に食指が動いたのですが、結局見送りました。そうやって見送った本は他の箱でもたくさんあるのですが、こういう仕事をしていると「今買わなくちゃ」というものはどうしても少なくなりがち。またそういうものがあったらあったで「運営側の自分が買うよりはお客さんに買ってもらった方が」となって、いずれにしても見送ることとなるのです。ケチなのと頭固いのとの合体ですね。

「これは!」という箱は、最後のIMAGOにありました。店に入って正面の「古本すなめり」さん。ポール・ウイリアムズの『アウトロー・ブルース』(晶文社)に、集英社文庫広瀬正。ふと横を見ると、ちょうどオヨちゃんが買ってるところだったのですが、そのなかには河村要助の『サルサ天国』もありました。そしてとどめを刺されたのはベースボールアルバム NO.22『木田勇』(恒文社)。付録のポスターもついていて美品。木田の顔なんてほんと久しぶりに見ましたが、よく考えたら彼は最後中日にも籍を置いていたし、ある意味この日本シリーズにもっとも相応しい本かも、などと一人心の中で大盛り上がり。「オヨヨ賞と被らなければよいのだけど」と思いながら、店主の方には「『アウトロー・ブルース』と『木田勇』は売れ残ったら買います」と伝え、店に戻りました(結局『アウトロー・ブルース』は売れちゃって木田の本のみ購入となりました)。

 それからはずっと店番。14時と17時半からは「UZO展」のライブ(期待以上の演奏!)もあったりと、店内もこれまでの一箱古本市当日とはまた違った雰囲気でした。たくさんの方が箱がないにもかかわらずほうろうまで足を運んでくださり、うれしかったです。ありがとうございました。

(宮地)