一箱古本市2日目 前半篇「拾った本でお金持ちになるのだ」

 まずはじめに感謝を。
 気まぐれな雨のなか臨機応変に動いてくださった助っ人のみなさん、過酷な状況下でも笑顔で応対してくださった店主のみなさん、気持ちよく場所を提供してくださった大家さん、それに足下の悪いなかお運びいただいたお客さま方、本当にどうもありがとうございました。天候に恵まれなかったにもかかわらず楽しい一日となったのは、すべてみなさん一人一人のおかげです。重ねてお礼申し上げます。


 本日のぼくの担当はファーブル昆虫館「虫と詩人の館」。以前奥本さんに「どうぞ使ってください」と言っていただいてからの「いつかここでも一箱を」という思いが、今日ようやく叶います。あいにくのお天気とはなってしまいましたが、ご存知「岡崎武志堂」ご一家、3年連続となる「楽楽楽楽楽(ごらく)堂」さん、あと昨秋に続いての「ぼろ舎」のおふたりという少数精鋭の店主さんが揃い、専従スタッフとして助っ人くださるのも、1日目に店主をされた「やまがら文庫」さんに、昨秋出店され南陀楼賞を受賞された「NEW ATLANTIS」さんという豪華メンバー。さらに、一日限りの特別企画「ファーブル昆虫館の書庫整理市」も加わり、雨何するものぞ、という気構えであります。
 たくさんの店主さんが集まる大きな会場もにぎやかで楽しいですが、ここのようなこじんまりとした場所も店主さん同士やスタッフ、および大家さんとの間に親密な雰囲気が生まれて良いものです。昆虫館のスタッフの方々と岡崎さんが箱のなかの本を手に談笑するうち11時となり、いよいよスタート。「楽楽楽楽楽堂」さんの箱には山田風太郎やSFの気になる本が何冊かあったのですが、いきなりぼくが買うわけにもいかないので、とり急ぎ次の会場に向かいます。今日は「古書ほうろう賞」を選ばなくてはいけません。


 保健所通りをまっすぐ歩き旧安田楠雄邸へ。ここは玄関両脇の大きなひさしの下に計5箱。ある程度の雨でも十分しのげると想定して選んだ場所でしたが、向かって左側は風向きもあって結構厳しい状況。さらにしゃがんで箱を見ようとするとちょうどひさしから落ちる水滴が直撃するため、落ち着いて本が選べません。終日こちら側に陣取った「屋根裏の散歩会「モンガ堂」さんはどちらも個性的な品揃えだっただけに、本当に申し訳ないことをしました。反対側の「おやじランナーの連帯」さんのところには『天空列車―青蔵鉄道で行くチベット』が200円で出ていて、これは欲しかったのですが、売れ残ったら買うことにしてここは我慢。その隣に出されているのは、今回ここをお貸しいただくのに尽力してくださったみなさんの箱「柏舎」。普段は「たてもの応援団」として、旧安田邸の保存公開などさまざまな活動をされています。あとここには塩山芳明さんも「嫌記箱」を出されていたのですが、それについては後ほどまた。


 さて、このあたりで、1日目に続いてPR文の紹介といきましょうか。東西両横綱とするなら、こちらが東。

ミニコミ誌「野宿野郎」と「野宿」やら「野郎」やらが含まれた題名の本を売ります。あるのかな。

 題名に「野郎」のついた本って・・・。いいなあ、このセンス。『ろくでなし野郎』に『からっ風野郎』、ってそれは映画か、などと思いながら映画保存協会へ。古い蔵のなか、ほの暗い空間に蠢く人をかき分け「野宿野郎」の箱にたどり着いたぼくが目にしたものは・・・。『ユダヤ人大富豪の教え』『3分で金運がついた』『年金は自分でつくれ』などなど。あらー、野郎はどこ!?てんで編集長の加藤さんに訊いてみると、見つからなかったので野宿の帰りに拾った本を持ってきた、という面白すぎる答え。そのあたりの詳しいことはこちらこちらのご本人自身による文章をぜひご覧ください。でもこの人はほんとユニーク。今回の一箱古本市の2日間、たくさんの素晴らしい箱があちこちに出されていたのですが、この「野宿野郎」の箱は明らかにひとつだけステージが違いました*1

 でも、この映画保存協会の蔵の中、というシチュエーションは、思いのほかいい感じでした。一箱古本市は基本的には屋外開催を前提としているので、ここについても、もし晴れていれば外の公園に箱を並べる予定でした。もちろん、それはそれでのんびりとした気持ちのよい午後となったに違いありませんが、今日のこの摩訶不思議な雰囲気は出なかったでしょう。雨のなか、お客さんは減ってしまったし、来てくださった方も大変だったと想像しますが、でも災い転じて福となったように思います。もちろんそれは準備の段階から全面的に協力してくださった保存協会のスタッフのみなさんのおかげなのですが。古本部屋の手前のカフェ・スペースも居心地よく、また手づくりのお稲荷さんをたくさん用意してくださったりと細やかな気遣いに溢れていました。


 狸坂を下り古書ほうろうに戻ると、店内のあちこちにフリマ方式の箱と店主さんが。もちろん雨を避けるにはこれしか方法はないのですが、ゆっくり本を見るにはやはり厳しい環境。早く外に出したいのはみな共通の思いなるも、止んだかと思えば降り出す意地悪な天気が続きます。南陀楼さんが自分のハンチングとお揃いの『獣』という本を「ハニカム書房」さんで見つけて盛り上がっていたのは確かこの時間帯で、そのときは一瞬空気が緩みました。ひと通り見たなかもっともぼくの好みだったのは「古書・思いの外」さん。品揃えの傾向がうちに似ているような気がして。


 ということで雨中徒歩による前半篇はここまで。以下、後半篇「オヨヨで見つけた底なしの箱」に続きます。しばしお待ちを。 
(宮地)

*1:ここにはほかにも興味深いみなさんが揃っていたのですが、ぼくは「potato books.」さんで手製の栞を買いました。チェコなんじゃないかなあ、というデザインの切手をあしらったかわいらしいもの。