曾宮一念、装幀の仕事


 古本屋をはじめてしばらくは、「おたくは白っぽいのばかりだねえ」とか「黒っぽい本ないの」なんてことを訳知り顔のお客さまに言われたりすると結構凹んだりもしましたが、面の皮が厚くなったせいか、いつの間にか気にならなくなり、また、そういう台詞自体、耳にすることが少なくなってきました。
 そもそもうちのような市場に出入りしない店に、そうそう黒っぽいものが入ってくるはずもないのですし、なにより、自分たちのできることは地域の物々交換のよき中継点となることだ、ということが、ぼくたちが自覚するだけでなく、お客さまにも少しずつ伝わっていったのかな、などと思ったりもしています。

 そんなわけで、相変わらず白っぽい本屋なのですが、よその古本屋で買った黒っぽい本をうちに売ってくださるお客さんは増えたので、時には戦前の本が入ってくるようになりました。

 今日紹介するのはそんな1冊です(全3巻ですが)。


 昭和9年白水社から出た、嘉村磯多全集。外函が、ご覧のような惨状なのですが、にもかかわらず、この本からはつくり手の矜持が感じられて、手元にあることに喜びを感じます。装幀は、曾宮一念。ぼくはこの画家について何も知らなかったのですが、扉のデザインや、通し番号の札など、とても洒落ていて、がぜん興味が湧いてきました。

 嘉村礒多のことは、むかし文庫本を1冊読んだ程度。とくに思い入れがあるというわけでもなく、エッセイなどは今回はじめて目を通したのですが、癖になるというか、ひとつ読んだらもう一篇読まずにはおられないような、不思議な魅力がありました。売れるまで、少しずつ読んでみようかな。


 お値段はこちらです。読むことのみを目的とするなら、とても良い買物かと。(宮地)