『世界屠畜紀行』出版記念フェア

 すでにフェアの告知はしてますが、内澤旬子さんの『世界屠畜紀行』が入荷いたしました!
 ちょっと強烈なタイトルかもしれませんが、旅の本、食の本、職人の本としても抜きん出たおもしろさです。手に取らず嫌いはいけません。
 世界屠畜紀行
 年末に戴いた見本を、並大抵の情報量ではないはずなのに、遅読の私が正月に一気読みしました。夜な夜などっぷり夢中になって読んどりました。イラストも文章も、屠畜手順など細部にわたって描写しているのがわかりやすく読みやすく、しかも変な感情移入してないのが心地よく、それでいて生き物の体温がムンと湯気を放つような臨場感があるのです。本文中に、参考サイトにリンクをはるようにURLが記載されているのも、読者には楽しい広がりです。

 そもそもは造本家である内澤さんの、造本材料のひとつである革の鞣し現場を実際見たいという動機から始まった屠畜紀行。韓国、バリ、エジプト、チェコ、モンゴル、沖縄、芝浦、墨田、インド、アメリカ、豚、牛、犬、羊、ヤギ、西日暮里・・・、取材するうちに、差別や、宗教観、動物愛護団体の主張など、国や場所により様々な問題や違いが現れてくるのだが、ラインを組んで大量生産してようが、一頭一頭手捌きしようが、現場にはいつも、自らも職人であるウチザワが惚れ惚れする刃捌きの職人たちが黙々といい仕事をしているのである。
 そう、私たちがほとんど包丁も入れる必要のないくらい扱いやすい状態で売っている「お肉」は、考えてみれば生き物の時には私たちの手に負えない大きさなのである。血を抜いたり、皮剥いだり、頭も落としたり、病気の検査も必要だし、内蔵だってうまく取り出さなきゃいけない。鯵や鰯を捌くのとはわけが違う。おおごとなのだ。わたしは何にもに知らずに誰かが作ってくれた「お肉」を食べていたんだなー、と。

 しかも、わたしの近くにもそんな職人さんたちがいたのだ。わたしは山手線の田町駅の近くで生まれ育ったが、隣の品川駅のすぐ近くに芝浦屠場があることを、実は内澤さんから牛の取材の話を聴いたときに初めて知ったのだった。「え、じゃあ、芝浦の牛食べてたんですね!」と云ったら、「いえ、ミカコさんの口には入ってない、と、思います。芝浦の牛は高級料亭なんかにいっちゃいますから。」ということで、なかなかお近づきにはなれないようなのだが、都会育ちには珍しいたくさんの牛や豚が、毎日、毎日目と鼻の先に送り込まれてた(もちろん今も)のかと思うと、ちょっとした興奮を憶えるわけです。しかしそれと同時に、子どもの頃誰からも知らされなかったことに、差別の裏返し現象があったことが見えてきます。まぁ、大人になっても知らなかったのは、ただわたしがぼんやり生きて来たことによるんだろうけれども。築地の魚河岸や大田区の青果市場が、あらゆる媒体に頻出してることを考えると不自然なことが多くある。芝浦屠場は情報館の見学はできるみたいなので、自分が何を感じるかも興味深いし、今度実際に見に行ってみようと思う。

 世に出た『世界屠畜紀行』、これからはこの本自身がどんな旅をしてくのかが楽しみです。
 読み終えて一番最初に思ったのは、この本がいろいろな言語に訳されて世界に飛び出してくといいな、と。 まぁとにかく、老いも若きも、肉食べてる人は、全員読みましょう!貴重な一冊だと思います。

(ミカコ)