年頭の誓い

 今年初めての、何の予定もない一日。さて、どうしようか、と一昨日あたりから考えていたのですが、結局映画を観ることにして、新文芸坐まで行ってきました。現在日替わりのアジア映画特集が開催中なのですが、今日は『春が来れば』『クライング・フィスト』の韓国映画2本立て。どちらが目当てというわけではまったくなく、いくつかの名画座の本日のラインナップのなかでもっとも予備知識がないのがこれだった、というのが選んだ理由。こんな日だからこそ、これまで興味のなかったよきものに出会いたいなあ、と。
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 韓国映画を観るのは初めてでした。そんな気はしていたのですが、タイトルバックに出てくるハングルにまったく既視感がなかったことで確信しました。もうずいぶん前からこんなにあれこれ評判になっているのに、どれひとつとして観ていなかったというのは、やっぱり好み(あるいは行動パターン)が保守化しているのですかね。いかんなあ。でも、そんななか最初に観ることになった1本が『春が来れば』だったというのは、ツいてました。

 監督のリュ・ジャンハはこれが長編デビュー作とのことですが、挫折感に苛まされた中年男の再生という結構ベタな題材を、これまた真正面から描き、しかも夕暮れの砂浜でトランペット吹いちゃったりするにもかかわらず、まったく鼻白んだりさせることなく、ただただ泣かせてしまうその腕に、すっかり降参させられました。舞台となる韓国東北部の炭坑町やソウルの下町の風景も素晴らしく、またそこでの人々の生活が丁寧に描かれていたのも印象的でした(なかでも食事のシーンが特に)。

 主演のチェ・ミンシクさんにも当然初めてお目にかかった訳ですが、心の荒んだ男を、とても自然に、そもそもそういう人であるかのように演じていて、いっぺんで好きになりました。そして、幸運にも(というか、ただ知らなかっただけですが)続けて上映された『クライング・フィスト』にもチェ・ミンシク登場。やはりくたびれた中年役ですが、手にするのがトランペットからボクシングのグローブに変っています。よって心だけでなく身体もボロボロ。血と汗にまみれた役どころを凄絶に演じていて、こちらも充分観るに値する作品でしたが、いまの自分にとってしっくりきたのは断然『春が来れば』の方でした。相手役の女性を演じるキム・ホジョンさんもとてもチャーミング(ぼくと同い年だそう)。ブラバン映画としても楽しめますし、ほんとおすすめです。

 この特集上映は日替わりで19日まで続きます。あさって13日(土)には、現在往来堂書店で開催中の「不忍ブックストリートが選んだ42冊」フェアで谷根千工房さんが大プッシュしている『ディア・ピョンヤン』の上映もあります。未見の方はそちらもぜひ(実はぼくもまだ本を読んだだけなのですが、在日の人々や北朝鮮について多くのことを教えられました)。

 泣き腫らした顔で池袋の街に出て、ディスク・ユニオンとレコファンに寄り道。ちょっとは期待していたユニオンにはこれといったものはなかったのですが、何も期待していなかったレコファンに掘り出し物が。1992年に新星堂から出た『スペルビア&ロス・アンヘレスの芸術』がそれで、お値段も1365円と手頃。今年最初に購入するCDがこれというのは大変縁起がよいです。

 コンチータ・スペルビアは、1895年バルセロナに生まれたメゾ・ソプラノ。SP時代を知るご年配の方々にはカルメン役で有名だそうですが、ぼくは浜田滋郎さんの『スペイン音楽のたのしみ』で初めてその名を知りました。なかでも、「スペイン音楽党にとっては宝物にほかならない『七つのスペイン民謡』『トナディーリャ』ほかのスペイン歌曲」というフレーズはしっかり頭に染み付いて、ずっと気にかけて探していたのですが、どうもぼくがスペイン音楽に夢中になりはじめた時期が悪かったようでこれまでは巡り会いませんでした。いやあ、うれしいなあ。

 家に帰って早速聴きましたが、期待通りの情熱的な唱いっぷり。ファリャの「七つのスペイン民謡」は大好きな曲で、店でもときどきテレサ・ベルガンサイエペスのものをはじめあれこれかけているのですが、これでまた1枚、たくさんの人に聴いてもらいたいアルバムが増えました(おまけのように収録されているロス・アンヘレスも、やや珍しい楽曲を集めた若き日の歌唱で聴き応えがあります)。しかし、このスペルビアといい、フラメンコのニーニャ・デ・ロス・ペイネスといい(このふたりはほぼ同世代)、1920年代から30年代にかけてのスペインの歌い手さんたちの充実ぶりはすごいなあ、とあらためて感じ入りました。

 とまあそんなわけで、今年こそは、観に行った映画やコンサートの記録ぐらいここに残したいなあ、と思ってますが、どうなることでしょう。とりあえず明日も書けるかどうかが分かれ目。ではまた。

(宮地)