モツ煮狂い

koshohoro2006-11-14

 本日12時半頃、とうとう『モツ煮狂い』が入荷しました。いやあ、うれしいです。とりあえず10冊、著者であるクドウヒロミさん手ずからお持ちくださりました。この本は、クドウさんが1冊ずつコツコツとつくっているものなので、ひょっとしたら売り切れ即補充とはいかないかもしれません。今日も早速1冊売れましたし、どうぞみなさんお早めにご購入ください。350円というのは、内容を考えるとほんと安いですよ。

 さて、その内容についてもう少し詳しくご説明しましょう。構成は至ってシンプルです。「東京モツ煮厳選20店を紹介」と「レシピ研究5点」の2本立て。お店の紹介では、まず店の場所、店内の形状、雰囲気が簡潔に語られ、その後モツ煮そのものについて考察がなされます。クドウさんの文章は抽象的なところがなく、素材や調理方法、味付けなどについて具体的に伝えてくれます。添えられたモツ煮そのものの写真とも相まって大変食欲をそそられるわけですが、この「どうしてもこの店に行って食べてみたい」と思わせる力が、この本のもっとも素晴しいところです。そしてその力は、「モツ煮なしではいられない」という人はもちろん、「結構好き」というぐらいの人へも強く激しく働きます(他ならぬぼく自身がそうなので間違いありません)。

 うちの店のお客さんでも、すでに『モツ煮狂い』を片手にモツ煮行脚をしている方が、ぼくが知るだけでふたりいらっしゃいます。一人はご存知南陀楼綾繁氏。その楽しそうな様子はナンダロウアヤシゲな日々でご覧になった方も多いでしょう。ぼくに最初に教えてくれたのも彼で、ちょうどひと月前、SAKANAのライブに一緒に行ったときに見せてもらったのでした。

 もう一人は「秋も一箱古本市」でも出店されていた「ニエクボ2号店」さん。つい1週間ほど前も、ちょっとほろ酔い気分で来店され、「いま、町屋の小林に行ってきました」と、その報告をしてくださいました。行かれたのはわりと早い時間で、お客さんは常連さんがひとり。しばらくするとご主人が気を遣ってくださったのか、「インターネットを見て来たの?」と声を掛けてくださったので、おもむろに鞄から『モツ煮狂い』を取り出し、「これを見て」というふうに会話がはじまり、その後モツ煮談義で盛り上がったそうです。ご主人は『モツ煮狂い』のことはご存じなかったそうですが、その後新しいお客さんが来るたびに「この人、本見て来てくれたんだよ」と、彼のことを紹介してくれたそうです。

 ところで、ここまでは触れませんでしたが、この小冊子には実はあとひとつパーツがあります。「はじめに」として巻頭に載せられている一文がそれで、タイトルは「モツ煮の歴史と荷風の見た東京」。ある日出会った『最暗黒の東京』という本をきっかけに、あれこれの文献をあたりながら東京のモツ文化についての考察を深めていき、こういうものをつくるに至ったクドウさんの思いが記されています。少しだけ引用して、紹介を終わります。

 やきとんやモツ煮の旨い呑み屋というのは、これまで江戸からの下町情緒を残した生活感と雰囲気に結びつけて語られることが多かったわけですが、私はむしろ『最暗黒の東京』でつかまえられた近代都市の周縁部の風景、都市論や郊外論との接続で理解したいのです。

(宮地)

最暗黒の東京 (岩波文庫)

最暗黒の東京 (岩波文庫)