金井久美子の灰皿

 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

 ぼくとミカコは今日が仕事始め、たまっている買い取りの計算や、買いっぱなしの本の品出しなどをしているうち、古本屋のリズムが自分のなかに戻ってきて、なんだかとても良い気分でした。調子に乗ってるうちに、先月始めた「本日の装幀大賞」みたいの、の第2回をお送りいたします。
 著者が半村良で、タイトルが『うわさ帖』、そんでもってカバーがこれっていうのはちょっとハマりすぎで面白みがない、という方もなかにはいらっしゃるかもしれませんが、ぼくはこういうのが好き。昭和57年初版の講談社文庫で特に珍しい本とも思えないのですが、うちで出すのは初めでです(滝田ゆう装画の単行本の方がよく目にします)。
 ごらんの通り、金井久美子の描く灰皿と背景の水色がとても良い雰囲気をかもし出しているのですが、彼女が妹さん(金井美恵子)以外の本を手がけてる、というのがちょっと意外でした。まあ、ぼくが知らないだけなのかもしれませんが。金井姉妹と言えば、かつては新宿あたりの文壇バーで鳴らしていたようですし(by 野坂昭如)、半村良も元バーテンダー。年もそんなには離れていないし、知り合いであること自体は特に不思議はないのですけどね。


 さて、半村良。大好きな作家なのですが、この本は読んでませんでした。と言うか、エッセイはほとんど読んでいない、ということにいま気付きました。なんでかなあ。ただ、全作品を読破してこの人のすべてを知りたい、というタイプではないのかも。思い入れのわりには、読んでいないものも少なからずあるようです。
読書会
 そんな不肖のファンではありますが、せっかくなのでこれだけは紹介させて、というのが『岬一郎の抵抗』です。よく「人情噺的世界とSF的想像力が融合した傑作」というような説明のされかたをするのですが、そんなこと言われたって「何のことやら」って感じですし、「まあともかく読んでみてください」と言うしかありません。自腹を切って本を薦めることなどまずないこのぼくが、一度ならず人に贈呈しているめずらしい作品なので、信用してもらってもいいと思いますよ(いくつかある版のどれも、装幀はイマイチですが)。また、「お前に言われても」という向きには、去年出た、恩田陸山田正紀との対談本のなかで、おふたりが熱く語っていた、ということも付記しておきます。あれはうれしかったなあ。ほかにも、山東京伝に会うやつとか、天保六花撰のメンバーが総出演するのとか、タイトルはすぐに思い出せないものの忘れがたい作品は多いのですが、それはまた別の機会に。
 値段は525円です。多くのお客さんの眼に触れてほしいので通販はしません(まあ、注文はないとは思いますが、念のため)。

(宮地)