真鍋博の蒸気機関車

「本日の装幀大賞」みたいのを始めてみようかな、と、いま思い立ったので、忘れないうちにやってみます。


 モノに対する執着はそれなりにある方で、だからこんな仕事にたどり着いたというところもあるのですが、少なくとも本に関しては、年々所有欲がなくなってきてます。10年前だったら絶対に売らなかったような本も、いまはジャンジャン出してますから、まあ少しは古本屋らしくなったのかもしれません。

 ただ、いまだに、装幀のよい本が入ってくると囲い込んじゃう傾向はあります。特にひと昔前の文庫本。でも売らずに置いといたって毎日愛でるわけでもなし、そのうち忘れて店の奥深く埋もれてしまうだけなんですよね。もちろんそんなことずっと前からわかっていて、でもやめられなかったのですが、こういうコーナーをつくって写真をアップしていけば、なんかそれで気が済んで、案外あっさり品出しできるのかも、と思い立ったというわけです。最近ようやく携帯のカメラ(NOKIA N73)で撮ったものをはてなにアップするまでのプロセスを覚えた、ということもあるのですが。


 で、栄えある第1回は、レイ・ブラッドベリの『スは宇宙(スペース)のス』。ご覧の通り、装幀は真鍋博。いかにも真鍋さんらしい世界のなかを機関車が走っていて、何ともいい感じです。創元推理文庫で、1972年の第3刷。あまり自信はないのですが、たぶん初めて見ました(東京ステーション・ギャラリーでの展示にも入ってなかったはず)。説明の必要もない古典ですから、もちろんいまでも東京創元社のカタログには残っていますが、デザインは変わっちゃってます。お好きなかたは、お早めに(値段等はこちらで)。

 さて、この本、実はきのう買ったのですが、それを今日もう出しちゃう、というのが、ちょっと良い気持ちだったりします。商売人として自分が成長したような(笑)。ほんとはさりげなく100円均一に入れて、なおかつ喜びを感じられたりできれば本物なのですが、やっぱりそれは無理みたい。ちょっと気の利いた本がきれいな状態で入ってくると、反射的にグラシン巻いちゃいます。
スは宇宙(スペース)のス (創元SF文庫)
 少し前、都筑道夫の状態のあまり良くない文庫本を20冊ほどまとめて均一棚に入れたら案の定飛ぶように売れて、お客さんもうれしそうだし、やっぱりこういうの大事だなあ、と思うんですけどね。まあでも、こうやってかたちを作ることで、売れそうな本を出し惜しみせずに棚に並べられるようになれば万々歳なので、今日のところはこれで良しということにしときましょうか。

(宮地)