「こまものやさんからのお便り」編集者天野みかさんのお仕事

 イラスト展「こまものやさんからのお便り」早いもので、残り3日となりました。
 今夜は、20時より「吉上恭太さんのサウダージな夜」もありますよ。


 パソコンが不調で大変遅くなってしまいましたが、本日はイラストの展示以外のことをご紹介します。今回のイラスト展、準備をすすめるうちに、天野みかさんのイラストが生まれる背景も覗いてみたいと思うようになり、ミニ関連企画もしています。

 ひとつめは、天野さんによるアフガニスタンのアルバムと体験記。
 この夏、天野さんは、参加されている「アフガニスタン 山の学校支援の会」に同行し、初めて現地を訪れました。
 帰国後すぐに届いたお便りには、チラシに使わせて戴いたアフガニスタンのメロンのイラストが描かれていて、私にとってはゲリラとか、タリバンがすぐに連想されてしまう彼の地が、「本を読む細長いメロン」の小さなイラストにより急接近してきたのでした。やっぱ、天野さんのイラストってすごい!


 その後、見せてもらった写真には、日本では見たことないような、緑と荒涼が同居している山々、乾いた空気、澄みきった青空、滞在した山のお宅ののごはんや、はにかんだり、かしこまったりしてレンズに収まる子どもたちがたくさん写っていました。
 それらの写真を閲覧用のアルバムとして、印刷した天野さんによるアフガニスタン備忘録はご自由にお持ち帰りいただけるようになっています。


 もうひとつは、天野みかさんの本業、編集された本の展示、販売です。
 どの本もとても丁寧に編まれていて、挿し絵使いなど、ちょっとした気遣いがたのしいのです。自社装になるためクレジットはありませんが、天野さんご自身が装幀された本もあるのですよ!

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『家郷のガラス絵』 長谷川摂子
2011年6月30日発行  1,890円
装画 新井薫/装幀 天野みか
 歳を重ねられた、絵本・童話作家長谷川摂子さんが、故郷出雲での幼き日々を描いた回想録、などというよりは、大人のことばを操る女の子、摂子ちゃんによる語りもの、とご紹介したいような瑞々しさ!
 後半の小津映画への熱き想い、フェルメールと小津を似た者同士と位置づける独自の考察も大変興味深く、確かめてみたくなります。

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『とんぼの目玉 言の葉紀行』 長谷川摂子
2008年10月30日発行  1,785円
装幀 田宮俊和/装画 新井薫
 なんと楽しい本でしょう!ページの上でことばが活きのいい魚みたいにピチピチ跳ね、長谷川さんのことばのリズムにのって歌でも歌いたくなってきましたよ。
 そしてなんと好奇心旺盛!興味もったことばを追っかけ、あっちの海、こっちの海。こんなふうに歳を重ねられたらいいなぁと思う。
 こまものや展の準備から今日まで、天野さんと今までになく頻繁に会って、おしゃべりして。そんな時間の流れの中でこの本を開いたら、長谷川さんと天野さん、似てるな、と思いました!

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『崖っぷちの木地屋 村地忠太郎のしごと』松本直子 著
2009年3月30日発行  1,785円
装幀 天野みか
 へぎの木地屋、村地忠太郎は92歳。木曽川のほとりの仕事場でひとり、50年以上にわたり木の声をに耳を傾けてきました。木地屋とは、漆塗りで仕上げるための曲げ物や椀などの木地を作る職人のこと。「へぐ」とは木の目に沿って木を割り板状にすること。村地は光を通すほど薄くへぐことができるのだそう。
 村地の生き方、佇まいは、まさに木の美しさを伝えるため、山からおりてきた木精そのもの。
 師の技を伝えるべく奔走する著者の情熱は、古文書をあたり、歴史を紐解き、木曽の言葉ひとつひとつまでを両手に載せて読者の元に届けてくれます。

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『南木曽の木地屋の物語 ろくろとイタドリ』  松本直子 著
2011年4月25日発行  1,890円
装幀 天野みか
『崖っぷちの木地屋』に続き、木地屋の物語、2冊目。こちらは、ろくろ挽きの木地屋、小椋榮一の仕事を、そのルーツである山の民の足跡まで遡りつつ山から山へ追いかけます。
前作共々、読んでいて、宮本常一を初めて読んだ時の興奮が甦りました。
「山津波」を「蛇抜け(じゃぬけ)」と呼び畏れる人々。大自然への畏怖の念を祈りに籠め、その大きな存在に寄り添うよう生きてきた、その強さは、頼もしく私の心に刻まれました。

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パレスチナ・そこにある日常』高橋美香 著・写真
2010年10月30日発行  2,100円
パレスチナイスラエル?と疑問符だらけの人でも大丈夫。高橋美香さんの撮る人々の表情がすばらしくて、あっというまに惹き込まれます。
イスラエル政府による突然の退去命令、家の破壊、不当な逮捕など、パレスチナ人を巡る状況が日々悪化する中で、美香さんが出会った人々の生き方に胸を打たれました。パレスチナ人の友人の家庭に滞在し、高いところからでなくわたしと同じ目線でひとりひとりの名前、日常を報せてくれる本でした。ヤギの生死に立会うパパとママの姿は感動的です。知らずにいることは罪だと思いました。

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『早稲田古本屋街』 向井透史
2006年10月1日発行  1,890円
装幀 多田進/カバー・表紙イラスト 多田順/地図 浅生ハルミン
「昭和二〇年、早稲田古本屋街消滅」という衝撃な見出しで幕開く、今、私たちの知る「早稲田古本屋街」の歴史。
 古書現世二代目向井透史さんによる、同じく早稲田の古本屋の先輩や仲間を訪ねての聞き書き、「開店まで」や2代目店主の物語には、店の数だけドラマがあって、頷いたり、吹き出したり、落涙したり。
 今や恒例となっている「BIGBOX 古書感謝市」や、穴八幡宮での「早稲田青空古本祭」誕生に至る流れが、関係者の証言から徐々に浮かび上がってくる第4章。古本市の喧噪とともに、汗や唾が飛んでくるようで、古本屋好き、古本市好きで未読の方にはこの舞台裏、ぜひ読んでいただきたいです。
 「広漠なる田野」に早稲田大学の前身である東京専門学校が誕生し、戦争を経て、早稲田大学のある街が形成され、そこから焦点を絞っていくと、古本屋街が大きな生命体のように動き、成長してきているのがよくわかります。巻頭の浅尾ハルミンさんの地図がとても役立ちました。
 全体を通じて常に客観的であろうとする向井さんの目は、膨大な資料を検証し、取り巻く時代の流れも含めて俯瞰しているので、後々の人々にも大いに役立つことになる一冊だと思いました。向井さんすごい。

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『記憶にであう 中国黄土高原 紅棗(なつめ)がみのる村から』 大野のり子
2009年5月9日発行  1,575円
2003年観光で訪れた中国で、著者がたまたま降立った黄河の畔の小さな村。そこはかつて日本軍の三光作戦により多くの村人が殺戮された村だった。何も知らずに訪れた著者は、老人たちの憤怒を浴び、著者の人生を変えることになった。2005年から村に暮らし、老人たちの写真を撮り話を聴く。深い皺の刻まれた老人たちが何を語ったのか。
この本は、イラスト展を終えたらゆっくりと読もうと思っています。


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『若き高杉一郎』 太田哲男 著
2008年6月30日発行  3,675円
わたしにはちょっと難しそうな本です。読み始めたらおもしろそうなのですが、間に合いませんでした。すみません。(汗)
高杉一郎、小川五郎、改造社、『極光のかげに』、アグネス・スメドレー『中国の歌ごえ』、フィリパ・ピアス『トムは真夜中の庭で』にアンテナが反応する方、上のタイトをクリックしていただくと、版元紹介ページに行きますので、ご覧になってください。