写真集『女川海物語』


小岩勉写真集 女川海物語 おながわうみものがたり
タツムリ社 1992年初版
2,400円(税込み)

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 原発のある漁村、ということを知らずにこの写真集を開けば、日本の漁村の原風景といえるようなのどかな風景とともに潮のかおりが鼻の奥に甦り、人々の、笑い声が聞こえてきそうだと感じるかもしれません。

 岩手県一関市の山村に育ち、仙台に住む著者が、原発のある漁村、宮城県牡鹿郡女川町に通いながら、そこで出会った人々の話に耳を傾け、そっと寄り添うように日常を切りとった写真は、あくまで静かです。

 しかし頁をすすめると、おだやかな風景の中に、原発阻止の旗を持つ人々の背中が突如現れ、のしかかる現実を知らされます。(使用済核燃料排出の日)


 原発建設計画が上がった時、人々はみな反対だった。それを電力会社の社員が一軒一軒回った。
原発ができたことで、昔からの、浜の人間関係をメチャメチャにされてしまったんだよ。だから…あのとき反対したのが良かったのか、そうでなかったのか…」(あとがきより抜粋)

 女川原子力発電所は、1984年営業運転を開始。掲載されている写真は、1988年から1991年にかけて撮りためられたものです。


 今年の6月、〈Book!Book!Sendai〉の一箱古本市に参加するため、私たちは仙台に行きました。その時訪ねた、〈書本 & cafe magellan(マゼラン)〉さんで、そろそろ帰ろうと店長の高熊さんにご挨拶をしていたときに、この写真集と出会いました。

 生活に追われ、流されていく日々の中で、立ち戻る場所を示してくれている写真集だと思いました。自分たちの店にも置き、ひとりでも多くの方にご覧いただくことが私たちの役目だと思っています。


 この写真集の版元であるカタツムリ社は、仙台の〈火星の庭〉の前野久美子さんのブックカフェ開業の背中を押した師、8月に逝去された加藤哲夫さんが創られた出版社です。
 この6月には加藤哲夫さんの書かれた『市民のネットワーキング 市民の仕事術 I 』『市民のマネジメント 市民の仕事術 II 』(各 987円)が、仙台文庫シリーズとして刊行されましたので、そちらも併せて取扱いをはじめました。
 前野久美子さんの『ブックカフェのある街』は再版が決まり、これまで版元のメディアデザインさんで取り置いてらした交換用の在庫を出荷できますとのご配慮を戴きましたので、『齋正弘さんの『大きな羊のみつけかた』とともに再入荷ししています。