飛び立つ「古書信天翁」と、「古書ほうろう」のこれから

 すでに告知しております通り、古書ほうろうの4人のうち、山崎哲神原智子のふたり(通称:五号荘組)が、このたび独立します。

 http://www.yanesen.net/horo/info/detail.php?id=35

 1998年の開店以来、4人で力を合わせてなんとかやってきましたが、ここで一区切りつけ、お互い新しい道を進むことにしました。ぼくたちにとっては一年以上も前から話し合いを続けて出した結論ですが、突然のことに驚かれた方もいらっしゃるとは思います。ことの経緯について、以下ご説明しておきます。


 2004年の秋、店のすぐそばにブックオフができて以来、ぼくたちはずっと藻掻いてきました。「あんなの全然影響ないでしょ」という声もたくさんいただきましたが、まあ影響がないはずなどなく。売上げは、がくんと落ちました。ただ、それまで恵まれた環境の中のんびり働いていたぼくたちにとって、自分たちの店について考えるよい機会ではあり、差別化を図りつつお金を稼ぐため、以後試行錯誤してゆくことになります。

 たとえば、それまでこの店は買ってくださるのも売ってくださるのも地元のお客さんが中心で、しかもそのことを誇りに思ってやってきたのですが、その上で「遠方からもたくさんのお客さんに来ていただける店」にすることを積極的に考えはじめました。不忍ブックストリート一箱古本市は(ほかにも要因があるにせよ)そのひとつの大きな果実で、そんななか起きた様々なできごとや素晴らしい出会いの数々、そしてそれらがこれからも続いていくことを思うと、与えられた試練も満更ではなかったようです。

 ただ、そうして地元以外のお客さんが増えても、売り上げが戻るには至りませんでした。もっとも、このまま生活を切り詰めていさえすれば、4人で低空飛行を続けることもあるいは不可能ではないのかもしれません。実際ここ数年、なんとか暮らしてきたのですし。でもそれは、たとえば神原やミカコが他で稼ぐことで乗り越えていただけで、この店で4人が食べていたわけではありません。4年前、「1週間をそれぞれの夫婦で半分ずつ受け持ち、残りの時間は各々が自分のために使う」というシフトに移行して以来、ぼくも2年ほど図書館で働きました。それはそれで貴重な経験でしたが、でも古本屋の仕事に力を傾けたいというのが偽らざる気持ちでした。

 じゃあ、どうするのか。


 この場所が古本屋になったのは、1995年の夏、もう15年も前のことです。はじめの頃は雇い主も別にいて、総勢8人で楽しくわいわいやっていました。もちろんずっと古本屋をするなんて誰一人考えもせず。でもその後いろいろあって、最終的に「古本屋をするのだ」と覚悟を決めたのが現在の4人です。それから12年。いたわり励まし合いながら、なんとかかんとかやってきました。ただ、それと同時に甘えやマンネリも生まれてきました。年月の経過とともにそれぞれの役割分担ができあがってしまい、各自がその力を出し切れる体制でなくなってもきました。「いまの状態を壊し、もう一度4人ではじめる」というのも、もちろんひとつの方法です。それについても考えました。でも、この際、袂を分かち、それぞれがそれぞれの店に力を注いだ方がいいのではないか。何より後悔しないのではないか、という思いの方がどうしても強く、ぼくからこの話を持ちかけました。それが去年のはじめ頃。それから一年かけて、そうすることを4人で決めました。

 自分で望んだこととは言え、ふたりと別れることにはもちろん大きな感慨があります。詳細は省きますが、もし山崎と出会わなければ、ぼくは古本屋をしていなかったでしょう。ひょっとしたら今頃どこかで野垂れ死んでたかもしれません。10代の終わりに出会い、濃密な数年間を過ごし、学生時代の終わりとともに疎遠になり。それがいくつもの偶然から再び出会うことになり。まあ、お互い同じ町でこれからも店をしていくのだから、そんなしんみりすることではないのですけどね。今回のこの決断が、ぼくたち4人にとってよきものになるよう、ただただ頑張るだけです。


 五号荘組の古書信天翁への引越しは、いよいよ明日6月3日(木)です。絵本、美術書、写真集、マンガなどなど、この店でふたりが担当していた本は、すべて日暮里夕やけだんだん上の新店舗に運び込まれ、6月中旬予定の開店を待ちます。
 古書ほうろうは、古本屋にとどまらない新たな場を目指して模索中です。今年中には何とか生まれ変わりたいと思っております。しばらくはバタバタいたしますが、どうぞご期待ください。
 いずれにせよ、これから先も、「信天翁」と「ほうろう」という、バカバカしくもそれ以外はありえない名を持った両店を、どうぞよろしくお願いいたします。
(宮地)

古書信天翁 http://www.books-albatross.org/