編集グループ<SURE>の本フェア

koshohoro2009-10-08

 黒川創さんをお迎えするカタリココに合わせて、本日から「編集グループの本フェア」を開催しています。は、黒川さんと、その妹さんで画家の北沢街子さん、編集者の瀧口夕美さん*1の3人が京都で切り盛りする小さな出版社。最近では、鶴見俊輔の『悼詞』が話題になったので、ご存知の方も多いと思います。

 http://www.groupsure.net/


 ぼくがはじめてのことを知ったのは、数年前に訪れた京都の三月書房で『酒はなめるように飲め/酒はいかにして飲まれたか』(山田稔北沢恒彦)をみつけたときのこと。山田稔の知らない著作ということで手に取ったその本は、印象的な装画があしらわれた函の中に浅葱色と薄茶色の2冊の文庫が収められた手のかかった造本で、もうその佇まいだけですぐに買うことに決めました。読み進むうち、名のみ知っていた北沢恒彦という人のこと、黒川さんがその息子であること、山田稔が黒川さんの『もどろき』の書評を書かれていることなどを知り、それは今回黒川さんをお招きすることに繋がっていくのですが、それと同時にという名前もぼくのなかに深く刻み込まれました。


 では、とはどういう版元なのでしょう。昨年出た平野甲賀と黒川さんの共著(というかの主催したトーク・イベントの採録)『ブックデザインの構想』の冒頭で、黒川さんは以下のように説明されています。

 わたくしども編集グループSUREは、京都を根城に、手づくりみたいな本を作ってこの街とつながっていきたいと、こぢんまりと活動しているグループなんですけども、出版というものをあまり狭く解釈しないで、一種の美術運動というか、街に出てこのようなイベントをやったり、年ごとにTシャツなんかもデザインしてみたり、いろいろ試してみたいと思っているんです。


 また、山田稔を囲む会の採録である『何も起こらない小説』のなかでは、こんな風に。

 ここは、もともとは私どもの祖父が米屋をやってた店先なんです。SUREという工房の名前は、父の北沢恒彦が生前、「編集グループSURE主筆」と一人で名乗って、「SURE」という簡単な冊子をつくっていたことから取ったんですけども、父が死んでしばらくたって、この名前をつかって何か活動したらいいんじゃないかとはじめました。
 私たちとしては、モノを作りたい。気持ちとしては、たとえばウィリアム・モリスの「アート・アンド・クラフツ」なんかが思い浮かんだんですけど、もっと下町風の「アート・アンド・クラフツ」をやれればいいなと。SUREではこれまで何冊かの本を出してきましたが、本ならモノとしてもそれほど高価にならないし、内容もさまざまだからおもしろいんじゃないかと思ったわけです。


 古書ほうろうは何かモノを作っているわけではありませんけど、でも黒川さんのこういう発言には同じ匂いを感じるというか、まあ思い込みもあるんでしょうけど強い共感を抱きました。小さなコミュニティでのひとりとひとりの関係が、いろんな風に転がっていって、そこから何かが生まれたり変わったりする。そういうことを信じてる人たちなんだなあ、と。ネット上の新聞記事で知った「取次会社を通さない直接販売が基本で、できた本は自転車に積んで書店を一軒一軒回る。」というところなど、どうしても谷根千工房を思い起こしますし。

 また、さきほど引用した2冊もそうですが、トーク・イベントや勉強会の模様をおこして収めた本が多いのもそのことを表しています。そこではゲストが話すのをただ拝聴するのではなく、司会の黒川さん、ホスト役の鶴見さんをはじめ、そこにいる人全員が話に加わっていくのですが、そのスリリングなこと。「シリーズ鶴見俊輔と考える」「セミナーシリーズ 鶴見俊輔と囲んで」と題されたこれらの本は、そういう点での真骨頂だと思います。門戸は大きく開かれており、なおかつ奥が深く、多くの人にとって、自分の知らないさまざまな事柄へのこれ以上ない入口となるでしょう。少なくともぼくにとってはそうでした。


 最後にもうひとつ、はじめに戻るようですが、の本の魅力として絶対に言い落とせないのが、ほとんどの本の表紙を手がける北沢街子さんの絵です。この企画を考えたときからこっち、彼女の装画がほうろうのショーウインドウを飾るさまをずっと夢想していたのですが、昨晩ようやく叶いました。みなさんもぜひご覧いただき、そして店内で手に取ってみてください。

 あと、そうだ、に興味を持たれた方は、21日のカタリココにもぜひお越しください。黒川さんとは一昨日の打ち合わせではじめてお目にかかったのですが、話せば話すほど話の尽きない魅力的な方でした。ホストの大竹昭子さんとも話が弾み、当日はきっと興味深いお話が伺えると思います。ご予約はこちらから。

(宮地)
 

*1:瀧口さんは「イワト」の最新号に、「それでよかったのかどうか 1 瀧口ユリ子への聞き書き」を寄稿されています。