ふたりジャネット

 朝から尾久図書館に出勤。自分が8時半から働いているなんてちょっと信じられませんが、まあたまには。雨のため都電荒川線で行ったのですが、完全に朝の通学時間帯。ああいう雰囲気の車内に身を置くのは本当に久しぶりで、高校生たちの眩しいこと。

 仕事の方はこんな天気だけにたいそう暇で、そんな日は棚の整理をしたりするわけですが、今日のぼくの担当は、漫画、YA、外国文学という区画。漫画の棚は整理しても整理してもすぐ荒れてしまうので、今ひとつやりがいがなく(もちろんやりますけどね)、逆に外国文学の棚は読む人が少なくほとんど乱れていないため、やはり張り合いがないという、まあそんな場所なのですが、1冊面白い本を見つけたのでご報告を。


ふたりジャネット (奇想コレクション)
 2003年以来、河出書房新社から毎年数冊ずつ「奇想コレクション」というのが出ているのですが、そのなかの1冊『ふたりジャネット』。作者はテリー・ビッスンという人です。このシリーズ、読んだのは今回がはじめてなのですが、その素敵な装幀ゆえ前から気になってはいました。松尾たいこ&阿部聡のコンビによるカラフルでありながらシックな装いは、ただ背表紙を眺めているだけでも他の本とは違う空気を発していて、面出しも平積みもない図書館の棚でもひと際目立つのです。だからこの本もたぶん一度ならず手に取っているに違いないのですが、今日はなんとなく「昼休みに読んでみるか」と思い立ったのでした。

 冒頭に収録されたビッスンの出世作「熊が火を発見する」における、タイトルそのままのユニークで忘れがたい情景と不思議な余韻を残す結末、あるいは、アップダイク、ベロー、フィリップ・ロスなどなど、有名作家たちが続々と南部の田舎町に越してくる表題作「ふたりジャネット」の、いかにもほら話然とした味わいも捨てがたいのですが、ぼくが一番気に入ったのは「アンを押してください」というショートショート。こういう洗練されたユーモア、好きだなあ。編訳者の中村融によると、ビッスンにはこのような会話だけで成り立つショートショートがまだたくさんあるとのこと。ぜひもっと翻訳していただきたいものです。以下、書き出しをちょっとだけ引用。

いらっしゃいませ
毎度ご利用いただき
ありがとうございます
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ありがとうございます
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  残高照会
  お天気

 ピンと来た方は、ぜひご一読を。5分もあれば読めます。


 午後になっても時間は淡々と過ぎてゆき、とくに何事もなく17時閉館。
 普段ならまっすぐ帰宅するところですが、今日はこれからが本番。図書館から徒歩数分の「西尾久三丁目」停留所から東京駅行きの都バス(東43系統)に15分も乗ると「千駄木5丁目」。そして、そこから5分も歩くと、駒込大観音境内に建てられた水族館劇場の巨大なテントが姿を現します。尾久周辺にお住まいのみなさま、来週あたりちょっと足を伸ばしてみませんか?「でも水族館ってなによ?」という方は、こちらをご覧あれ。
(宮地)