魅惑のカリプソ文庫

 朝降っていた雨もやみ、上々のお天気となった一箱初日。出店者のみなさま、足を運んでくださったお客さま、何かとご協力いただいた地元の方々、そして多くの力を貸してくださった助っ人のみなさん。本当にたくさんの方々のおかげで、なんとか無事終えることができました。まだ2日目も残っていますし、一箱古本市weekも続いていきますが、感謝の気持ちで一杯です。ありがとうございました。願わくば、5月3日も好天に恵まれますように。


 さて、一箱古本市も4年目を迎え運営もそれなりに成熟してきたこと、また2日間に分けたことで一日あたりの箱数、スポット数が減ったこともあり、今日はぼくたちスタッフもある程度箱を見て回ることができました。まずはそのなかから、ぼくがもっとも魅了された箱のことを。


 その名は「カリプソ文庫」アートスペース・ゲントの左端に据えられた箱の中には、本秀康のポストカードセット(サイン入り!)にはじまり、小林信彦山田風太郎カート・ヴォネガット四方田犬彦など、数々のぐっと来る本が並び、それだけでも相当ぼくの好みなのですが、さらにもうひとつ大きな特色があったのです。それは箱の上に無造作に積み重ねられたCDで、何の気なしに手に取るとどれもこれもがジャマイカの音楽*1。しかも500円均一。「若い頃とても好きでした」と仰るそのラインナップは、相当聴き込んでこられたことが一目でわかるもの。もちろん名前も知らないミュージシャンのものもあるのですが、それにしてもいったんカリプソさんのふるいにかけられているわけで、一瞬全部いただいてしまおうか、という思いがよぎりました。もちろんぼくたちスタッフがそんなことをするのは反則なのですが、でも1枚くらいはOKだよな、ということで選んだのがこれ、『Rupie Edwards Hit Picks』。ロックステディ全盛期のプロデューサー、ルピー・エドワーズが主宰していたサクセス・レーベルのコンピレーションです。この人のこと、ぼくは全然知らなかったのですが、ライナーノーツのなかで米光達郎さんが

我が師匠、山名昇氏の編集による”ブルー・ビート・バップ!”を見たら「ヴィンテージ・プロデューサー・インデックス」のコーナーに、ちゃんと20字×38行でピックアップ。

と書かれているのを見て即決しました。面識こそありませんが、ぼくにとっても山名昇さんは心の師匠ですから*2



 ところで、CDを買ったのは11時半頃だったのですが、カリプソさんの箱のあるアートスペース・ゲントはぼくの担当スポットである貸はらっぱ音地への通り道ということもあって、その後も閉店時間の16時まで何度かお邪魔しました。実は気になる本がもう1冊あったのです。売れるにしたがい補充され微妙に変わっていく箱のなか、その本はずっと残っていました。リシャルト・カプシチンスキーの『皇帝ハイレ・セラシエ』です。

 ちくま文庫にこんな本が入っているなんて知らなかったなあ。おおむねお値打ちなカリプソさんの箱のなか、この本には1300円という値段がつけられていたので「珍しいんですか?」と訊くと、ほとんど見かけないとのこと。「本当はもっと付けたかったんですけどね」と笑って仰ります。レゲエに心奪われた者なら、ハイレ・セラシエ、つまりラス・タファリにも興味を持って当然、というか義務のようなものですけど、じゃあ実際この本読むか、というと微妙なところ。所持していたい、という気持ちは強くても、まあ積んでおくことになりがちなんですよね。カリプソさんも「もっと若い頃に手にしていたら読んでいたかもしれないけど」と未読のご様子。でも、今日ここでここの本に出会ったというのは間違いなく何かの導きだし、結局閉店近い時間、ほかに誰も買わないことを確認したうえで購入しました。「一応ちゃんと読んでみるつもりですけど、ひょっとしたらそのうち店で売っちゃうかもしれません。気を悪くされませんか?」と、最後まで弱気なぼくに、「ほうろうさんで売っていただけるのならぜひ。読まれたらおしえてください」と、微笑んでくださったカリプソさんに感謝。

 そんなカリプソ文庫さん、いつもの年だったら1も2もなく「古書ほうろう賞」に決定なのですが、今回ほうろうの担当は5月3日ということで残念ながら差し上げられませんでした。その代わり、というのもおこがましいのですが、まず第一に紹介することでぼくの気持ちとさせていただきます。あと余談ですが、打ち上げイベントとその後の宴会も終わった深夜、ようやくミカコと今日の感想を語り合っていたら、彼女もカリプソさんでCDを買っていたことが判明*3。夫婦して大変お世話になりました。


 とまあ、今日のところはこのくらいで。そのほか印象に残った箱やイベントのことなどは、明日あらためて報告します。

(宮地)

*1:屋号にちなんだマイティ・スパロウのCDもあったように記憶していますが、ほとんどは広い意味でレゲエと呼ばれる音楽でした。

*2:実はいま、これを聴きながら書いているのですが、やはり期待に違わぬ素晴らしさでした。

*3:『the best of Desmond Dekker』