乱歩と名古屋とシマウマ書房

 母の手になる関西風おでんを肴に、両親と別れの杯を交わし、12時過ぎに家を出発。今日もまず「le petit marche」へ。滝村さんにご挨拶をし、こんどは地下鉄で一社。お目当ての「coffee Kajita」は、加藤千晶さんに教わったお店。カウンターだけなのに、椅子がゆったりしていて、とても落ち着きます。ご主人が一杯ずつ几帳面にいれてくださるコーヒーがおいしい。ちょうどぼくが入ったときはバート・バカラックの大好きな曲*1がかかっていたのですが、音の出所を探って視線を上げると、傍目にもただ者ではないスピーカーが天井付近に鎮座してました。それなのに、とても慎ましやかな音量というところがすごいなあ。会計の際にご夫婦にご挨拶し、不忍ブックストリートMAPも置いていただけることに*2


 覚王山へ移動し、古本カフェ「cesta」へ。ここで南陀楼綾繁さんと待ち合わせ。チェコのものに力を入れているお店で、ちょうどチェコの映画ポスターの展示販売もしていたのですが、棚には意外とスペインものが充実。これまでその存在も知らなかった『Guia アンダルシア フラメンコ ガイド』というすばらしい本を2000円で発見。アンダルシア州政府がつくった労作で、フラメンコのことをちゃんと勉強するのにうってつけ。これは、うれしい。ほかには、鉄道切手に鉄道スタンプが押してあるはがきを300円で。これは南陀楼さんがみつけてくれました。ここでスタンプが5個たまり、プレゼント応募用紙に記入。いくつかある景品からテレビ塔ブックマークなるものに印を。小学生の頃、テレビ塔から紙飛行機を飛ばすのが流行ったんだけど、あれは楽しかったなあ。

 次は連日となる千種。神無月書店に行ってみたいという南陀楼さんをご案内する。ちくさ正文館にもぜひ行ってほしいと念を押し、いったん別行動に。昨日も書いたようにこのあたりはぼくのホームグラウンドだし、ほんとはご一緒してあちこちご紹介すべきなのですが(たとえば、ウニタ書店とか)、南陀楼さんから栄の「ワンオンワン・ブックス」のことを聞いたら、いてもたってもいられなくなったので。途中、今池駅ビルのピーカンファッジに寄って、『スペインの七つの民謡〜テレサ・ベルガンサ/スペイン歌曲集』(KICC 2216)を購入し、栄へ。

「ワンオンワン・ブックス」はともかく写真集が質量ともに充実していて圧倒されました。あとでシマウマ書房さんに伺ったところでは、ご主人は元々コレクタ―の方で独自の買い付けルートなどもお持ちなのだとか。あと、モンド系のCDもごっそりと。アルマンド・トロバヨーリなどは同じタイトルが何枚も並んでいました。いずれ買わなければいけない『ミシェル・ルグラン 風のささやき』(浜田高志著)があったので、旅の記念に買ってしまおうかとも思ったのですが、かなりいいお値段だったので断念し、本田静哉『スペイン 観光と歴史の旅』(三修社)を150円で。1983年刊の一見古びたガイド・ブックですが、たとえばフラメンコの項など、ちゃんとカンテの話からはじめてファリャのことなども出てくる、わかっているつくり。なかでも「ローカル・カラー机上旅行」という章は、さまざまな特長を持つスペイン各地のそれぞれの州を、わかりやすくセンスの良い地図とともに紹介し、しかも同時にブック・ガイドにもなっているという、ありそうでないユニークなページ。これは拾い物でした。


 16時過ぎ、いよいよ本山へ。ここはぼくの通った東山小学校のお膝元。懐かしいし、時間にもまだ少し余裕があったのですが、でもゆっくり棚を見たかったのですぐに「シマウマ書房」へ。店主の鈴木さんにご挨拶し、すでにトークの準備の整っている店内を見せていただく。思っていたとおりの素晴らしい古本屋さん。こじんまりとしたスペースのなかに、良い本が過不足なく収まっています。しかも棚を少しずらせば、ちゃんと30人近くが座れる場所ができあがる。うーん。これくらいの広さでも、かなりのことはできるんですよね。ちょっと考えさせられました。シマウマさんとはイベント終了後の宴席でもお話しできたのですが、「うちは、アンチ・セレクトショップです」「どうせ売るならシマウマに買ってもらいたい、と思われるような店に」といった発言に、親近感を覚えました。棚の印象も、今回見て回った本屋さんのなかでは、一番ほうろうに近かったです。

 17時になり、小松史生子さんのトーク江戸川乱歩と名古屋」。小松さんのことは今回はじめて知ったのですが、名古屋のモダニズムがそこで育った乱歩にどういう影響を与えたか、といったようなお話。本筋の話にはまだまだ謎が残りましたが、枕で話されたポプラ社本の挿絵の話など、面白い話をたくさん聞きました。

 終了後、近所のこじゃれた居酒屋にて打ち上げ。小松さんをはじめ、やはりシマウマ書房でトークをされた芥川賞作家の諏訪哲史さん、今回のガイドブックをつくられた「SCHOP」編集長の上原さん、昨日入れなかった「猫飛横丁」の店主の方、『乱歩と名古屋』の版元風媒社の林さん、あともちろんシマウマさんなど、たくさんの方が参加され、あれこれと話をしました。時間の進むのがはやく、途中からはあまり憶えていないのですが、諏訪さんによる、恩師種村季弘の思い出話、小松さんの守備範囲の広さ(アニメから尾張柳生まで)、そして盛り上がったのが、来年一箱古本市をどこでやるか。四谷通り、大須円頓寺などいろいろな場所が候補に挙がりました。ぼくのイメージは四谷通りなのだけど、なつかしの円頓寺というのも捨てがたいなあ。


 23時過ぎにお開き。どうでもいいことですが、本山から大曽根方面に帰る人が、普通に名城線に乗ることに、時の流れを感じましたねえ。名城線環状線として繋がるのは、小学校の頃のぼくの悲願だったので。たしか6年生のとき『名古屋市基本計画』というようなタイトルの本が出て、ぼくはそれを市役所だか区役所だかで買ったのですが(たしか当時2000円以上する立派な本でした)、そこには、10年後、20年後の名古屋の未来図が載っていて、地下鉄の路線図なんかスゴいことになってました。その半分ほどは、いまだに着工すらされていませんが、少なくともこの環状線は実現したわけです。同じクラスでやはりこの本を持っていてお互いびっくりした渡辺くんは、いま頃どうしてるかなあ。

 最後まで送ってくださった上原さんや、リブロの青木さんと、そんな話をするうち(確かしたような気が)、名古屋駅到着。お別れのときとなりました。名古屋のみなさま、大変お世話になりました。また来年、楽しみにしています。 

(宮地)

*1:バカラックの自演で、タイトルはたぶん”No One Remembers My Name”

*2:今日伺ったお店では、ほかにも「le petit marche」「cesta」「ワンオンワン・ブックス」「シマウマ書房」に置いていただきました。