「Poetry in the Kitchen」の佐藤わこ 

 で、仕事は20時くらいに切り上げ、ミカコと水道のポエトリー・イン・ザ・キッチンへ。まだご存じない方も多いでしょうが、後楽園の先、大曲の交差点のそばにあるタトルビル2階の一室。7人が共同でシェアして、曜日ごとにさまざまなことが行われている、開かれた居心地のよいスペースです。今晩は、そのうちのひとり、佐藤由美子さんが新たに立ち上げた、小さな出版社トランジスター・プレスの、刊行記念のリーディングの会。

 由美子さんとは、彼女が「American Book Jam」の編集をしてらした頃からのお付き合い。「12 water stories magazine」時代にはミカコの日記を載せていただいたりもしたし、第1回の一箱古本市にも出店してくださった。共通の知り合いも多い、というより、由美子さんがいなければ出会わなかっただろう人のなんと多いことか。たとえばカワグチタケシさんとも出会わなかっただろうし、だとしたら小森(岳史)くんとも会ってない。もしこの5年ほどの間、千駄木に小森くんがいなかったら、ずいぶんさびしかっただろうな。というようなことを、たぶん由美子さんと出会った人はみんな感じているに違いなく、それは彼女が一貫して、少数派のための「場」をつくり続けている人だからだと思う。ラディカルに、けれどもけっして押し付けがましくはない態度で。

 今日トリをつとめた佐藤わこさんとも、そんな流れのなかで知り合ったのでした。
 トランジスター・プレスの第1回刊行作品として装いも新たに出された『ゴスペル』の全編を、ゲストのパーカッショニスト渡辺亮さんのしなやかなリズムをバックに朗読するわこさん。その美しい声に耳をすますと、この10年ばかりのことがあれこれと思い出されてきます。


 もうずいぶん前の、うちの店での朗読会。書棚をどかした店内で、朝まで飲んだこと。ますだいっこうさんと出会った夜。いっこうさんは今日もいらしてるけど*1、笑顔はあのときと変わらない。また別の一夜。その打ち上げの席。今はもうない道灌山通りの「養老の滝」の2階で、さいとういんこさんに占いをしてもらっているミカコの姿。そうそう、あのときが小田木さんとの初対面だったなあ。
 はじめて究極Q太郎さんを観た上野の水上音楽堂。はじめてQさんと飲んだ「谷中鳥よし」での3K3打ち合わせの会。3K10の揃いのTシャツを着て「小奈や」でくつろぐ、究極、カワグチ、小森、3人の姿。Qさんはいつだってチャーミングだ。
 あと、そう、ふじわらいずみさんのことも。あれはいつだったか、たしか新宿の地下の店で聴いた、いずみさんと谷山明人さん(当時、春犬バンド)の共演。あれはよかった。今日もそうだけど、パーカションと詩、各々のリズムがからみあうのがぼくは好きなんだろうな。彼女はいま、ミラノで個展を開いている
 そして、それぞれの場所でいつもにこやかな表情を浮かべるカワグチタケシ。もちろん、今宵もここに。


 詩作についても、リーディングについても、まあ門外漢と言っていいぼくたちが、でもこんな風に、少なくはない時間を彼らと共有してきた。なんだか不思議なものです。そして帰る際のわこさんからのひとことが、そんな気持ちをさらに強くさせました。彼女はこう言ったのです。
「『ゴスペル』を全部読んだのは、ほうろうさんで演ったとき以来ですよ」と。


 写真は、こんど出た『ゴスペル』と、以前プリシラ・レーベルから出ていたリーディングのCD『Gospel』。

『ゴスペル』は、同時発売の仲光健一『黄色い象』とともに、まもなくほうろうでも取り扱う予定です。上記の文章ではうまく触れることができなかったのですが、はじめて聴いた仲光さんも、独自のスタイルを持った印象深い方でした。

『Gospel』の在庫は、残念ながらもうありません*2。ただ、お聴きになりたい方はレジで仰っていただければかけることはできます。また、『Indigo Blue』というカセット・テープなら1本残っています。これはレアなのじゃないかな。

(宮地)

*1:休憩時間に久しぶりにお話したら、いっこうさんは水族館劇場の桃山さんと面識があるとのこと。かつて上演中止になった「最暗黒の東京」といったようなタイトルの芝居のとき、現場で出会っているそう。びっくりしたけど、よく考えたらけっして意外ではないですよね。いっこうさんは『世界屠畜紀行』も読んでらした。

*2:3月2日、再入荷いたしました。1500円です。