ザムザ阿佐ヶ谷で鬼頭哲ブラスバンド

 そんなわけで、行ってきました阿佐ヶ谷へ。鬼頭哲ブラスバンド、東京で2度目の、そしてぼくにとってははじめてとなる演奏会。

 ここ2週間ほど、今日のライブのことを考えない日はなく、指折り数えて楽しみにしていました。当然、期待のふくらみ方も尋常ではなかったわけですが、実際はそんなぼくの期待のなんとちっぽけだったことか。


 これはいいバンドですよ。今日のような小ぢんまりとした親密な空間で聴くのも最高の贅沢だけど、もっともっとたくさんの人に聴かれるべき音楽です。

 演奏されるのは、すべて鬼頭くんのオリジナル。優しく、ときに夢見るようで、そして何よりもキャッチーなメロディ。はじめて聴くのに、曲の途中でもう口ずさんでいるような親しみのある調べ。

 そして、そんな旋律の数々を、30人からのメンバーそれぞれの楽器が、隅々まで行き届いたアレンジに乗って奏でるときあらわれる、響きの美しさ。耳を澄ませば、ホールのあちこちで、さまざまな音色が混ざりあってはその表情を変えていくのがわかります。

 また、その音の分厚さも特筆もの。1本のマイクすら立っていないのに、あるいはそれゆえか、音が大きなかたまりとなって迫ってきます。それをからだ全体で浴び、包み込まれる気持ち良さといったら。

 でも、そういったことだけなら、たぶんこんなにも幸せな気分にはならないでしょう。このバンドのもっとも素晴らしいところは、メンバーひとりひとりが、ほんと楽しそうに演奏していているところで、だからこそこの一体感がうまれるんだろうな。

 一番印象に残ったのは、「俺の部屋」というタイトルのついた、ローランド・カークを彷彿とさせる黒っぽいナンバー。この曲のみ、さびの部分に歌詞がついているのですが、鬼頭くんと、バンドのメンバー全員の気持ちがひしひしと伝わってきて、うたとコーラスのパートだけになった場面では、思わずほろりときてしまいました。こんな歌詞です。

思い出せない あの頃の気もちを とり返せ! ステップにあわせて
忘れたくない 大切なメロディ 眠らずに 明け方までうたおう!


 これはいいバンドですよ。ほんとうに、もっとたくさんの人に聴いてほしい。きっとそうなるに違いないけれど。


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(宮地)