『いのちの食べ方』特別鑑賞券取扱中 

koshohoro2007-10-23

 オーストリアのニコラス・ゲイハルター監督のドキュメンタリー映画『いのちの食べ方』(原題『OUR DAIRY BREAD』)が、11月10日(土)より渋谷シアターイメージフォーラムにて公開されます。
 先週ようやく試写に行ってきました。

 私事ですが数年前までかなり「食」をはじめダニだカビだと生活全般に神経質になっていた時期がありました。アレルギーと無縁に生きてきた自分が職業柄か年々鼻の雲行が怪しくなりはじめたことや、アレルギー体質の宮地の厄介そうな日々を少しでも改善できないものか、と思っていたわけです。
 食材は毎週宅配のカタログを開いては、有機、減農薬、無添加、という文字を追い、部屋にカビが生えれば、賃貸であろうと財布を絞り出すようにして珪藻土を買い求め、デパート行脚しては高密度シーツをと、まぁ、それはそれなりに進行を食い止めていたとは思います。

 しかし見る見るうちの財政は切迫し、また宅配生活というのは常に先を見越した注文をしなければならず、予定の立てられない身の上にはスタイルが合わないことこの上ない。結局一年ほどでやめにしてしまいました。

 それから数年経ち、「いい食材」に特別こだわらない今の方が、宮地のアレルギーも落着いていたりするわけで、まぁそんなもんだよなーと思ったり、こだわりを持ったって糸をたぐれば必ず生産効率お化けがくっついてるので、買い物のときには相変わらず食品表示を睨む反面、最近は、まいっか、って感じで、よく云えば力が抜けたというか、努力しなくなくなった主婦にとって、こういうドキュメンタリーがどんなふうに見えるのか。

 あ、ここまでお付合いいただいてなんですが、すでに観に行くのを決めている方は、この先、内容に触れる部分がありますので、どうか読まずにお出掛けください。

 食べものの生産現場のドキュメンタリーなんてどうせいい気持ちで観られるわけないろうと構えて臨んでしまうわけですが、現実は想像以上だったりするわけで、非常におもしろかったです。もう生産というより製造です。卵製造、パプリカ製造、豚肉製造・・・。
 今年は内澤旬子さんの『世界屠畜紀行』が出版され、屠畜についての知識だけは基礎があったため、観ながら妙に冷静に確認作業してたりするわけですが、むしろ牛の精子を採取する場面とか、牝豚が横倒しに固定されただ授乳するだけの物体になってる場面がわたしには衝撃的でした。あぁ人間はここまでしてるんだーと。
 野菜の現場もなかなか凄い。これはヨーロッパだからああいう発想なのか、自分が牧歌的無知なだけなのか。
 胡瓜でもピーマンでもなんとなく思い浮かべるのは、支柱を立ててそれにつるを絡ませたり固定させたり、せいぜい人の背丈くらいの列がビニールハウスに一直線に並んでるという光景なのですが、繰返し出てくる映像では、見間違いでなければ、首吊りみたいに茎の先端を上から吊るされ4、5mくらいの高さにまでユラユラと成長している植物たち。(ユラユラしてるわけは最後の方で解明するんですが。)あれはなかなか奇妙な景色でした。しかし収穫だけは日雇いであろう人夫たちの手により丁寧に行われており、人の手のしなやかさに、そんなところで感心したりしてしまいました。
 そのような「製造」現場の合間に労働者たちの昼食場面を折込み、現場の音だけを背景に一切の音楽もナレーションも無し、カメラの体温すら感じさせずにただ次から次へ淡々と現場を映し出してゆくのです。

 コストを抑え生産効率を上げることに徹することが、自分の想像とあまりにかけ離れた現場へと進化してしまっているため、次々と突きつけられる映像が一瞬なんのことだかわからず、しかし少々の戦慄を憶えながら答えを探して息をのんで落ちるのを待つ、みたいな、まるで静かなジェットコースターにでも乗っているようでした。
 パンフレットには解説が載ってますので、まずは何も読まずに席に着かれることをお薦めします。

 特別鑑賞券1500円にて取扱中です。

(ミカコ)