ラフン・タフ

 定休日ですが、例によって店内で在庫整理とミーティング。出足が遅かったため、あまりまとまった仕事はできませんでしたが、20時に切り上げて、ミカコと渋谷へ。お目当ては、シアターN渋谷で上映中の『ラフン・タフ』。レゲエの源流を探るジャマイカ音楽についてのドキュメンタリーです。

 この映画はミカコがどこかから情報を仕入れてきたのですが、実は今日までそれほど期待はしていませんでした。とっころがどっこい、これが拾い物。スカの誕生からロック・ステディの隆盛までの時期のジャマイカの状況を、当時現役バリバリで今なお存命中のミュージシャンたちへのインタビューから浮かび上がらせていく、というもので、彼らの話の内容もさることながら、その話っぷりや仕草が、その音楽を愛するものにとってはたまらないごちそうでした。主役的な立場でスポットを当てられているのはグラッドストーン・アンダーソンで、たとえば「これが私のつくったスカのリディムだ」などと言いながら、調律という概念がないかのような年代もののピアノを弾いてみせる姿などは、とても味わいのあるものでしたが、もっとも印象に残ったのは、アルトン・エリス。
ロックステディ・ソウル?クール・サウンド・オブ・トレジャー・アイル
 何人ものミュージシャンが、それぞれの立場で、それぞれのロック・ステディ誕生の瞬間を語っていく部分は、この作品の中でもハイライトと言えるところで、キングストンの町で同時多発的に曲がスローになり、ベースラインが細かくなっていく様子が浮かび上がってくるのですが、そのときのことをアルトンはこう言います。「あのリディムは誰かがつくったというもんじゃない。あれはオレのフィーリングだったんだよ。オレがもう少し遅く歌ってみようと感じて、そうしていくなかで生まれたんだ」。ニュアンスをうまく再現できないのですが「ヴォーカリストが一番偉いんだ」というようなことも言ってたような気がします。正直、そのアクの強さには辟易とさせられるのですが、でもこのみなぎる自信こそがぼくたちの好きな彼の歌をつくってるんだろうなあ、ということも感じずにはおられず、ますます好きになったということはまったくありませんが、とても納得しました。スカとロック・ステディのベース・ラインの違いを口で歌いわけるところのカッコ良さも必見。

 あと、面白かったのは、いまだに「スタジオ・ワン=コクソン・ドット」派と「トレジャー・アイル=デューク・リード」派の対立のようなものが存在することで、関係者の証言はどっち側の人間が喋っているかによって当然変ってきます。グラッドストーン・アンダーソンをまん中に置いているこの映画は、もちろんデューク・リード寄りのつくりになっているのですが、そんななかでも製作サイドはうまくバランスを取っているように思いました。個人的には、活字の上でしか知らなかったデューク・リードの人となりが実感できたのが大収穫。なかでもUロイへのインタビューが秀逸で、「いつもピストルを振り回している危ないおっさんで、あまり会いたくはなかった」けれど、その音楽に対する感性と愛情は本物で、「ダメなものには絶対OKは出なかったけど、彼が良いといえば間違いなくヒットした」というくだりは、Uロイ自身のキャラクターとも相まって、とても説得力がありました。

 シアターN渋谷での上映は24日(金)までで終りですが、12月2日(土)からは吉祥寺のバウス・シアターでもかかるようですし、大阪や仙台での上映も予定されています。ジャマイカの音楽が好きな人は絶対観ておいた方がよいですよ。

 あと、本屋なので本の紹介も。

 ぼくが今さら紹介するのも畏れ多いのですが、このあたりの音楽についての最高の本は、山名昇さんの『ブルー・ビート・バップ!』(アスペクト刊)です。未読(というか未所有)の方は、手元に置いておくことをお薦めします。あと、もしどこかで『寝ぼけ眼のアルファルファ』を見かけたら、これも迷わず買いましょう。

(宮地)

BLUE BEAT BOP!

BLUE BEAT BOP!