繋がってる

 南條竹則さんの小説が好きです。昨年たまたま読んだ『酒仙』が、酒、仙人、ファンタジー、三拍子揃って、ストライクだった。
『酒仙』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し、中華料理を愛して止まない著者は仲間を募り賞金で念願の満漢全席ツアーを決行。その顛末を小説にしたのが『満漢全席』。その本は知ってはいたが未読だった。賞金をこんな風に腹に納めてしまう人は、目が離せないぞと、立て続けに読みたい気持ちを押し殺しながらお愉しみを後回しにしてたのだけど、この正月、ついに禁断の蜜を舐めたのだった。

「僕、あの本に登場しているんです」
 昨晩の加藤千晶さんのライブでご一緒したご夫妻とたまたま南條さんの話題になったところ、ニコニコしながらそう仰るではありませんか。久しぶりに椅子から落っこちそうなくらいたまげました。まさに満漢全席ツアーのメンバーだったそうで。なんとまぁ、こんなに身近に!

 以前うちのライブで千晶さんに披露していただいた、かこさとしさんの『宝くじドリームジャンボ絵本』(縦1mもありそうな超大型絵本)の『満漢全席』版がいきなり目の前でパックリ口を開いて飲み込まれちゃったみたいでした。(わかる人にもわかりづらい喩え?)
 一歩に仙界に近づいた気分です。酌めども尽きぬ徳利が現れる日も近いかも!

(ミカコ)

中里和人写真展「ULTRA」臨界夜景

 昨日は、中里和人さんの写真展を観に新宿御苑まで。駅真上のsiriusというギャラリー。ちょうど中里さんもいらしてご挨拶し、先に到着したミカコとも合流。まずは一通り眺め、その後で中里さんに撮影場所や、裏話、技術的なことなどを伺いながら、もう一度。
 ご本人が「夜景じゃなくて闇景なんです」と仰る通り、暗い照明のなか、さまざまなものが浮かび上がっている。でも、最初に見えたと思ったのはまだそのすべてではなくて、本当の闇の中にいるときのように、目を凝らすと少しずつ見えなかったものが見えてくる。そんな写真です。
 アナログで撮ったのものをデジタルに変換してプリントアウトしたという大判の作品は、拡大されたひとつひとつの粒子のつらなりが独特で目を惹きます。あと2週間ほどで写真集としても出版されるそうですが(ちょうど昨日が本番印刷だったとのこと)、仕上がりははかなり違うものになるはずで、ファンの方はぜひ展示にも行かれた方が良いですよ(来週の水曜日10日まで)。もちろん本の方も、細部にこだわったぜいたくなものができあがるようなので、そちらも必携でしょうけど。なんでも版型が大きすぎるため、1冊ずつ手作業で製本するそうですよ。

 
 その後はいったんミカコと別れ、ディスクユニオンのラテン売場へ。カンテ・フラメンコのCDが中古でたくさん入荷していてのが悩ましく、また試聴させてもらったガーナのハイライフも面白かったけど(たしかE・T・メンサー)、結局買ったのはエリゼッチ・カルドーソの今年再発された『A ENLUARADA ELIZETH』のみ。大のお気に入りである『ジョアン・カエターノ劇場』の1年前、1967年の録音で、ゲストとしてピシンギーニャとカルトーラ!が参加しています。あと関係ないけどびっくりしたのは、ディスクユニオン新宿本館の前で店員さんが「セール開催中」という看板を持ってサンドイッチマンをしていたこと。寒いなか大変ですが、うちも四の五の言ってないでこういうことをした方が良いんですかね?


新宿駅最後の小さなお店ベルク 個人店が生き残るには? (P-Vine BOOks)
 夜はふたたびミカコと合流して、新宿駅構内のビア&カフェ「ベルク」へ。立ち退き危機のなか、今年は出版した本も大ヒットしてこれまで以上に有名になってしまいましたが、相変わらずビールもつまみも安くておいしい素晴らしいお店です。定番のハーフ&ハーフ生に加え、ちょっと贅沢して常陸野ネストビールのペールエールをはじめて飲みました。でも限定の樽生「金しゃちビール インペリアルチョコレートスタウト」は、勇気がなくて頼めなかったんですよね。名古屋への郷土愛に溢れ、チョコレートも大好きなのに、ヘタレだなあ、と反省。
(宮地)

東京ボーイズの新メンバーは、なんと細野晴臣!?


 昨日は定休日。昼間は例によって店内で在庫整理などしたのですが、夜は早退してミカコと王子の北とぴあへ。歌謡漫談の大御所、東京ボーイズ仲八郎プロデュースによる「ナカハチ・ライブ」の第12回目は、細野晴臣立川志の輔という大物ゲストを迎えての豪華版。しかもいち早く情報をゲットしたわれわれ北区民が手にしたチケットは、なんと最前列ですよ。わお。こんなに間近で細野さんを観られるなんて、たぶん最初で最後でしょう。
 東京ボーイズによるおなじみ「謎かけ小唄」で幕を開けたショーは、米粒写経による漫才、そして仲さんの政治家の物真似集「永田町天気予報」と続いてゆき、しっかり場が暖まったところで細野さん登場。「ここまではお笑いでしたが、ここからは音楽です」と重々しく語ったすぐあとで繰り広げられたのは、アコーディオンの三上さんとのコミカルな寸劇。「アコーディオンって、どうしてそんなにうるさいのかなあ。もっとあっち行って」と、まじめな顔で三上さんをどんどん袖に追いやる細野さんがおかしい。続いてようやく演奏されたのは「ろっかばいまいべいびい」。なのですが、なぜか歌詞の「ダイナ」の部分が「よしこ」に変えられています(♪よしこ、君といつも一緒だよ)。どうしたんだろうと思ってたら、最後メドレーで林家三平の「よしこさん」に繋がっていくという大サービス。これには仲さんの地元十条から大挙駆けつけたディープな北区民も大喜び。はじめて細野さんを観る(聴く)お客さんも多かったと思うのですがこれですっかり気持ちをつかみ、さらに「ピストル・パッキン・ママ」「Pom Pom 蒸気」「幸せハッピー」と演奏していきます。合間合間のトークもよくって、お祖母さんに連れられて芝浦埠頭まで蒸気船に乗りに行った話とか、あと「これは清志郎が詞を書いて、曲はぼくがつくりました。唄ったのは・・・誰だっけ?」なんていう場面も。清志郎の病状を心から気にかけてらっしゃる様子が印象的でした。

 中入りをはさんだ後半は、東京ボーイズの練達の芸ではじまり、志の輔さんの落語をたっぷりと、という構成(演目は「親の顔が見たい」)。最後には、仲、細野、志の輔のお三方によるトーク・コーナーなどもあって、大満足のうちに大団円を迎えました。志の輔さんをはじめて生で聴くことができたのもうれしかったし、米粒写経という滅法面白い漫才コンビを知ることができたのも収穫でしたが、でも、やはりぼくにとっては細野さんに尽きる一晩でしたね。おもちゃのアコーディオンを手に、仲八郎菅六郎のおふたりと共に登場し「東京ボーイズ!」とうれしそうに唄う細野さん。仲さんに何度も「細野先生」と言われ、そのたびにちょっと居心地悪そうな細野さん。そして、フィナーレで三本締めの音頭をとる細野さん。こんなときでもないとお目にかかれない様々な細野さんが、すぐそばにいました。

(宮地)


追記
 当日の出演者のうち、米粒写経サンキュータツオさんと、細野さんの相方をつとめたMICABOXの三上さんが、早くもそれぞれのブログでこの日のことを書かれています。特に三上さんのものは、ぼくたちには伺いしれない舞台裏が詳細に記されていて、読み応え満点。ぜひ合わせてご覧ください。

 MICABOXの井戸端「ハリーさんと一緒の誕生日」 http://d.hatena.ne.jp/micabox/20081126
 サンキュータツオ教授の優雅な生活「ナカハチライブ」 http://39tatsuo.jugem.jp/?day=20081126

休日は荒川線に乗って

 世の中は今日から三連休のようですが、ぼくは昨日おとといと非番だったので今日からは仕事です。きっとたくさんのお客さんが来てくださるでしょうし(どうぞお願いいたします)、気分よくバンバン品出しするつもりですが、まずはその前にお休み中の報告なぞ。

 木曜日。まずお昼過ぎ、団子坂のマンションまで出張買取りに。こちらのお宅には先週も伺って段ボール8箱ほどお預かりしてきたのですが、そのとき積み残したクラシックのCDとレコードを2箱ばかり。アナログ盤は基本的には引取らないのですが「残ったものは全部廃棄しちゃうので、買い取れなくても欲しいものがあったらどうぞ」とのことだったので、10枚ほどジャケ買い気分で抜かせていただきました。そのうち店内に飾ろうかと。本の方はこの週末から店頭に出す予定。モーツァルト関係だけで一棚つくれそうな量なんですが、さてどうしましょうか。

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 いったん家に戻って、夜は荒川線で大塚まで。ミカコと落ち合い、第69回南大塚ホール落語会へ。春風亭栄助改め「百栄の真打昇進を祝う会」であります。いや、百栄さん、面白いわあ。先月、うちの店での寒空はだかさんの会の打上げで「今度はじめて百栄さん聴きに行くんですよ」と言ったら、はだかさんが「百栄さんはいいよお」と絶賛されていて、いやが上にも期待は高まっていたのですが、さらにその上を行くキャラクターの持ち主。登場人物ひとりひとりが生き生きと動きまわる、とても楽しい「はてなの茶碗」でした。まだお聴きになっていない方はぜひ。近いところでは、今晩!上野の鈴本でトリをつとめるほか、明後日にも内幸町ホールでの昇進披露目があります。ぼくは来月吉祥寺マンダラ2で行われるはだかさんとの会に行って、こんどは古典ではない百栄さんを聴いてみたいと思っているのですが、さて師走のど真ん中に都合がつくや否や。

 この日は真打ち披露の口上もあったので、「こういうの、前に観たのはいつだっけかなあ?」とつらつら考えてみると、柳家喬太郎林家たい平のとき以来。調べてみるともう8年前ですか。あの頃は「寄席に行きたい」モードで、結構ちょこちょこ行ってました。でもそのうち「落語を聴きに行く」という習慣がぱったりなくなってしまって、ひょっとしたらずっとそのままだったかもしれないのを劇的に戻してくれたのが、今や本屋の世界でも知らぬ者のなくなった立川談春。去年こそ「ただ談春だけを追っかける」という感じだったのですが、今年は他の噺家さんも聴いてみようという感じになってきて、おかげで瀧川鯉昇(6/2 東京古書会館)、柳亭市馬(10/31 末広亭)、そして今回の百栄さんといった方々の高座に触れることができました。出勤してきたミカコが妙にニコニコしてるなあ、と思ったらヘッドホンで談志師匠聴いてた、なんてこともしばしばで、わが家はすっかり落語モードです。

 終演後は、偶然居合わせた店のお客さまと3人で北口の広東料理屋「大肚魚飯店」へ。スペアリブ豆�和え飯、おいしかったなあ。あと焼鴨飯も。お酒はそこそこに1時間ほどで切り上げ、巣鴨新田から荒川線で帰宅しました。ところでこの電停、通るたびに「乗り降りすることなんてきっとないだろうな」と思っていたのですが、案外あっさり利用することになって、ちょっとうれしかったです。こういう自然なかたちで、いつか荒川線の全停留所に足跡を残すのが夢なのですが、あと残っているのはどこも自転車でスイスイ行けるとこばかり。ということで、これは相当難しそうです。

 
 翌金曜日。昨日ですね。やはり荒川線に乗って雑司が谷まで。ちょっと歩いたシアターグリーンで、14時からチェーホフのちょっと変わった芝居を。前半がチェロの生演奏をバックに「ねむい」のひとり語り。まん中にチェロ独奏をはさんで後半は「白鳥の歌」。演じるのは共に劇団昴の創立メンバーである西沢利明西本裕行。普段こういうお芝居を観ることはほとんどないのですが、以前三百人劇場にいらした村上さんにご招待いただいたのと、なんと言ってもチェーホフなので。チェーホフの小説(特に中後期のもの)は全集でほとんど読みました。妙に肌が合うんですよね。なのでまあ「好き」と言ってもいいと思うのですが、ただぼくは戯曲を読むのが苦手なので、そっちのチェーホフはあんまり知りません。だから「お前がチェーホフ好きだなんて片腹痛いわ」と後ろ指さされているような気持ちはいつも心のどこかにあるのですが、そんな人間にとってはこの企画はとても魅力的でした。舞台の上のチェーホフは、ぼくが知っている彼よりも力強く、そして雄弁で、そういう意味ではびっくりもしたのですが、音楽とことばの重なるさまが心地よく耳に響く、濃密な一時間でした。明日が最終日ですがチェーホフ好きでお時間のある方はぜひお出かけください。

 終演後は池袋の街をふらふらしながら、なんとなく新文芸坐へ。ちょうどこれから『イースタン・プロミス』と『マンデラの名もなき看守』の上映が始まろうというところ。芝居を観たあとでさらに2本立てというのはどう考えてもあんまり。ただ、ぼくの好みから言って今日観なきゃたぶん一生縁がないのもまた確か。なんてことを思ううち吸い込まれるように入場したのですがこれが大当たり。特に『イースタン・プロミス』。ロシアン・マフィアの話ということで想像していた通り、ノッケからリアルな殺人描写で「あちゃー、やっぱりー」と慄きましたが、にもかかわらず惹き込まれる惹き込まれる。結末も案に相違して救いのあるものでしたし、これは超娯楽大作と言っても決して間違いではないかと。ロンドンという街のグレーな色彩がとても印象に残りました。サッカー・ファンなら「おおー!」と見入っちゃうシーンもあり。

マンデラの名もなき看守』は打って変わって重厚な佳作。難点は気がつくと眼から涙がこぼれ落ちてしまうことでしょうか。ぼくが学生の頃はマンデラ解放運動が日本でも盛り上がっていて、そういうライブイベントなどにも行きましたし、あの国についての本も読んだりしたはずなのですが、マンデラ氏と信頼関係で結ばれたこういう看守さんがいたということは今回はじめて知りました。『イースタン・プロミス』のあとだったせいもあるのでしょうが、空が青かったなあ。個人的には汽車のシーンも◎。

 終映後は向原の電停から荒川線に乗って帰宅。というわけで、池袋に行ったのに池袋駅にはまったく足を踏み入れずに済みました。ターミナル駅を人混みをかきわけ進むのは結構ストレスたまりますからね。荒川線だけで移動したこの2日間はほんと楽ちんでした。

(宮地)

一箱で自転車部隊隊長を務めたけんご(幼稚園)の呼びかけで田端で花火大会。
子どもたちの賑やかな手持ち花火が終わって、大人たちは線香花火。藁に黒い火薬のついた関西バージョンと赤い紙縒りの関東?バージョン。
どちらにしてもわたしの火玉は途中で落ちた。何度やっても。
ま、いいのだけど。

(ミカコ)

文京八中の熱い夜

 夜8時、文京区立第八中学校の門をはじめてくぐると、雨のなか煌々と明かりの灯された体育館が浮かび上がっていました。そんななか、いったい何が行われているのかと言えば・・・。

 もちろん、卓球です。世は卓球ブーム。ぼくは知りませんでしたが、都内の多くの公立校の体育館では、夜毎ピンポン球の音が鳴り響いているのだとか。

 なんてことがあるといいのだけど(いいのか?)まあそんなわけありません。でも、びっくりしたなあ。広い館内一面に並べられた10を超える卓球台と、それぞれの台で繰り広げられる老若男女の熱い闘い。ほぼ毎週金曜日、ここでこのような光景が繰り広げられているなんて。新しい世界を知りました。
 
 さて、そんな「おとなの社交場」とでも呼びたくなる素敵な場所に今宵ぼくを誘ってくれたのは、一箱古本市の店主や助っ人としてお馴染みのイクコさん。お互い中学高校と卓球部だったことを数年前に知り、以来「一度お手合わせを」なんて話を思い出したようにしていたのですが、ようやくその日が来たというわけです。卓球をするのはほぼ3年ぶりだったのですが、30分ほどフォア・ハンド・ラリーをひいただけで、すっかり汗だくに。もちろん昔のようなプレーはまったくできないのですが、でも頭と体の回路がうまく繋がる瞬間はやはりあって、久しぶりにスポーツをする快感を味わいました。

 終わったあとは、ダンサー・オオナカエイジ*1をはじめとする他の参加メンバー総勢5人で、すずらん通りは「たまゆら亭」へ。お約束の生ビールと、静岡出身のご主人のつくるおいしい料理を肴に、楽しい夜が過ぎていきました。

(宮地)

写真は中学のときから使っているラケット。今はほとんど絶滅した「中国式ペンホルダー」というやつで、上海の会社でつくられていたようです(型番は「PF4」と書かれてます)。ラバーは数年前に貼り替えた、TSPという日本のブランドの「CURL P-3」。現役時代は、これよりもっと粒が長くかつ太いイボ高1枚ラバーで、よく言えば変幻自在、まあ相手からすると感じ悪いとしか言いようのない卓球をしていました。今日のようにみんなで楽しくやる場合は、反対側に貼られた裏ソフト(愛ちゃんも使っている、いわゆる普通のラバー)しか使いません。